第1091話 *ルカール*
「お前たちにも事情はあろう! 譲れぬ思いもあるだろう! 同胞のために戦っているのだろう! だが、それでも越えられぬ敵がいる! それを知らぬお前たちは絶対に勝てない! 降伏しろ!」
なんでだ? なんで勝てないんだ! あたしらは過酷な選別を受けて選ばれた最高の戦士なんだぞ。なにを知らぬというんだ? こいつらとなにが違うというのだ! なんだというのだっ!
痛みより悔しさに涙が溢れてしまう。
あたしらは生きるために魔王についた。人を敵にした。
あたしら巨人は滅びに向かうだけの種族。各地から集めたとしてももう千人もいないだろう。なのに、痩せ細った土地しか与えられず、ちょっと荒れただけで食うに困ることもあった。
協力すれば新たな大地を与える。気候もよいので食うに困ることはないだろうと言われて魔王についたのだ。
そこに人間はいるようだったが、魔王は別に土地が欲しいわけではなく、人間を滅ぼすためにあたしらに声をかけたそうだ。
魔王の言葉を疑う者はいたが、あたしらには時間がなかった。このままではあたしらが滅ぶだけだから。やるしかなかったのだ。誰に恨まれようとも。
……それが悪かったんだろうか? だから罰が当たったのだろうか? そんことをしたからあたしらは神に嫌われたのだろうか……?
「お前らはただ運がなかっただけだ」
運、か。確かにそうかもな。あたしらは滅ぶだけの種族。生きたいと願ったことが悪いんだな……。
「だが、逆に運もよかった。神はお前らを見捨てなかったようだ」
そこで手の痛みが消えたことに気がついた。え?
反射的に手を見たら……なかった。でも、痛みはなく、血も流れていなかった。な、なにが起こったんだ?
手から辺りを見回し、あたしを見下ろす男が目の前にいた。
咄嗟に剣を探すが、つかむ手がないなことに気がついた。
「お前らの負けだ。敗者は勝者に従え。悪いようにはしないから。ほら、水だ。飲め」
なにか透明な容器を渡された。中は水か?
喉の渇きに堪えられず、顔にかけるように水を飲んだ。
「もっと飲むか?」
「いい。あたしらをどうするつもりだい?」
あたしらは負けた。もう命などないも同じ。好きにするがいいさ。
「それを決めるのはおれたちではない。女神の使徒たるタカトだ。お前らを殺すなとおれたちに命令したのもそのタカトという男だ」
……女神の使徒……?
「とりあえず、これを仲間たちに打て。怪我を治してくれる。なくなった手はもう少し待て。元どおりに治してやる」
まったく意味がわからないが、あたしらを辱しめる気はないようだ。
「使い方はこうだ。金属は無理だが、薄い布の上からなら問題ない。ただ、まだ戦おうというなら次は容赦はしない。タカトの敵として全滅させる」
「戦おうとは思わない。お前に従う」
わたしらでは勝てない。なら、生き残った者を生かすために動かなくてはならない。あたしは、民を守るために存在する女王なのだからな。
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