第1090話 *タダオン*

 チッ! ゴブリンを潰すことに夢中になりすぎた!


 タカトから巨人の軍団が現れたと聞かされ、慌ててやってきたらもう半分くらいは三人に倒されていた。


「タダオン! 殺さないていどに痛めつけろ! 死んだときはあたしがタカトに謝る!」


 つまり、タカトから殺すなって言われたわけだな。


 おれもかなり頭に血が上りやすい質だが、ラダリオンよりは理性的だ。殺すなと言われたら殺さないようにするくらいできる。てか、おれが理性的にならないと全滅させてしまう。


「まったく、嫌な立場だ」


 おれだって思うがままに暴れたいが、四人を率いるってことは理性的にならないと纏めることはできない。強いだけで纏め役にされたくないものだ。


「まっ、今はタカトがいてくれるから楽だけどな」


 一番になることがいいこととは思わなかったが、タカトが現れてくれたことで上に立つ必要もなくなった。おれは一戦士として戦えるようになった。


「我はタダオン! 怪我をしたくないなら降伏しろ! 悪いようにはしないぞ!」


 タカトが殺すなと言ったならこいつらを有効利用する手を思いついたのだろう。あの男は先の先を見ている。真の長とはああいうのをいうのだろう。多くの者が従うのもわかるというものだ。おれですらその度量と器量に頭を下げたくなった。


 ラダリオンが折れぬ槍と叫ぶのもわかる。あの男は絶対に死なせてはならない。すべての種族に必要な存在なのだから。


「戦士を愚弄するか!」


 そこそこよさそうな剣を持つ女が激昂しながらおれに向かってきた。


 どこからきたのかわからんが、他のところでは女も戦士に……いや、ラダリオンも女で戦士だった。戦士に男も女もなかったな。折れぬものを持った者が戦士。


「ならば力でねじ伏せてみろ! 我らは決して折れぬ槍。魔王軍だろうと退かぬ! この大地をお前たちが埋め尽くそうと一歩も退かぬ! 絶対に屈しぬ! お前らが地に倒れるまで槍を振るおうぞ! だが、慈悲を知らぬ蛮族ではない! 戦士の証を見せたら助けてやる!」


「ふざけるな!」


 フフ。まったくだな。おれもそんなこと言われたらブチ切れる自信しかないよ。


 バシュッと女の手が弾け、剣が吹き飛んだ。


 チッ。ソルのヤツ、いいところを持っていきやがって。ついてこないと思ったらそういうことかよ。


 仕方がないと、次のヤツに向かおうとしたら次々と剣や槍を持つ手を撃ち抜いていくソル。ちょっとはこちらの見せ場を残しておけよな!


 弾丸の速さに勝てるわけもなく、なにもすることなく制圧してしまった。


「……これで強敵が出てこなかったら泣くぞ……」


 おれ、ただデカいこと言ってただけじゃねーかよ。

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