第1085話 *ミリエル*

 タカトさんたちのほうは始まったか。


 やはり拠点を構えたゴブリンは終わっているわよね。いい標的でしかなあわ。


 ただ、相手は魔王軍。組織化された集団だ。ゴブリンだからと油断していい相手ではない。なにか隠していることがあっても不思議ではない。ただ、なにを隠しているかまではわからない。それに対処できるのはタカトさんだけでしょう。わたしにはまだ無理だわ。 


 対応対処能力はずば抜けている。咄嗟のことにも最善の答えを一瞬にして導き出す。あれはもう特殊能力だ。真似ようとしても真似ることはできないでしょうね。


「あら、お帰りなさい。どうだった?」


 本部にしている部屋に入るど、ソファーに寝転ぶミシニーさんが迎えてくれた。ワインを飲んでなければ笑顔で「ただいま」と言えるんだけどね……。


「少し動いてはどうですか?」


 確実に太っていますよね? まあ、前が細かったから普通になった感じではありますけど……。


「朝と夜に動いているよ。いざってとき動けないのでは冒険者として失格だからね」


 この人は請負員を副業みたいなものだと思っている。本筋は冒険者として生き、ここにきたのもタカトさんが依頼したからだ。


「タカトのほうはどうだい?」


「今のところは順調のようです。心配ならあちに向かっても構いませんよ。こちらはまだ動きはありませんからね」


 ルースミルガン改で向かえば一時間もかからないはずだ。


「ラダリオンやメビがいるならわたしは必要ないよ。なにかあればタカトが動くだろうしね」


 ミシニーさんやアルズライズさんは、わたしたち駆除員とは違う関係をタカトさんと築いている。その関係は三人にしかわからない。わたしには友人関係としか見れてないが、おそらくそれ以上に深い関係なんだろう。


「逆にいきたいならいってもいいんだよ。ミリエルが帰ってくるまでわたしが見ててあげるから」


 アルズライズさんもバケモノとは思うけど、この人が一番のバケモノだとわたしは思う。きっとラダリオンでも手こずるでしょう。わたしなんか足元にも及ばないわ。手数の多さは半端ない。わたしの眠りの魔法すら無効化させてしまうほど。戦略級の魔法使いだわ。


「大丈夫ですよ。わたしにはわたしの役目がありますから」


 わたしは別に目立とうとは思わない。どちらかと言えばタカトさんのオマケ、付属品と思ってくれて全然構わない。


 タカトさんが英雄にならなくていいように、わたしも名声を得ようとは思わない。わたしはタカトの杖。支えるためにいるのだ。侮られようと一向に構わない。逆に侮って欲しいものだわ。その心臓を止めやすくなるんだからね。


「悪い顔しているよ」


 おっと。いけないいけない。まだまだ心を隠すのが下手だわ。もっと感情を偽らないと。笑顔笑顔っと。


「それでいい。素の顔はホームだけにしな」


 そう言うと、部屋を出ていってしまった。


 ……もしかして、ミシニーさんがここにいるのって……?


「いや、辞めておきましょう」


 ミシニーさんにもミシニーさんの役目があるのだろうからね。

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