第1082話  *メビ*

 久しぶりの緊張感だ。


 まあ、そうは言っても体が硬くなることもなければ心が乱れるってことはない。久しぶりの大事に興奮しているんだと思う。


 大体の大事はラダリオンねーちゃんが出るからあたしの出番はない。ちょっとレベルが落ちた大事にしかあたしは参加できない。


 それはまあ、仕方がないことだと思う。あたしが強いと言っても生物の域でのこと。ラダリオンねーちゃんやアルズライズ、ミシニーとか生物の域から飛び出している。絶対勝てないと本能に語りかけてくる相手なのだ。


 あたしが生物としての域を飛び出せるのはもっと先だろう。てか、生物の域を出たいかと言われたら「う~ん」って感じかな?


 生物の域から出ると、考え方まで生物の域から出てしまう。


 ラダリオンねーちゃんなんてタカトのためなら笑って死ねるくらいの域にいっている。それが幸せだってくらいにね。


 あたしはそこまでは考えられないよ。あたしは生物の域で収まっていたい。でないと人並みな幸せを得られないからね。


「──メビ。目標地点に到着します。山頂まで約一分」


 落ち着かせるためにいろいろ考えていたらもう到着するようだ。


「マリル、マルゼ、やるよ」


 あたしよりプランデットの扱いに慣れたマリルに先頭を任せ、次かマルゼ。夜目が効き、勘の働くあたしが最後尾だ。


「了解」


 目的のために感情を殺せるところはいいね。これは、タカトの教育かな?


「り、了解」


 マルゼはまだ緊張しているか。まあ、無理もない。人間にしては身体能力は高いけど、まだ八歳。本当なら留守番を命じているとこ。タカトが止めなかったから口を出すことはしなかった。


「緊張してもいい。でも、目は動かしな。ねーちゃんを補佐するのはマルゼの役目だ。誰にもできないこと。しっかり役目を果たすんだ」


 マルゼの気持ちはよくわかる。あたしも優秀なねーちゃんを持っているからな。


「マルゼ。自分の能力を信じろ。タカトが同行を許したならお前にはそれだけの能力があると判断したからだ。決してねーちゃんのオマケだからじゃない。自分が信じられなくてもタカトを信じろ。タカトは人を見る目は絶対だ」


 タカトは優秀な者しか回りに置かない。こいつなら死なないと判断したから置いているのだ。


「うん!」


「そこは了解だ」


「了解!」


「それでいい。さあ、男を見せな。弱い男に価値はないよ」


 ニャーダ族の女は弱い男に価値を見出ださない。自分なりの強さを示せ、だ。


「あと十秒。後部ハッチ開放」


 後部ハッチが開き出して風が入ってきた。


「五秒前、四、三、二、一、タッチダウン! ゴー!」


「いくよ!」


 マリル、マルゼと飛び出し、あたしもMP9に弾を装填させながら飛び出した。

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