第1077話 *雷牙*

 やっぱりニャーダ族の女はこえ~わ。


 忌み子として一族から除け者として扱われてきたおれだが、それでも生きてこれたのはビシャがいたから。親もなく狩りもできないおれに食い物をくれたからだ。


 ニャーダ族の女の中でもビシャは優しくて愛情深いほうだ。タカトが隊長として派遣隊を任せ、認めているのもよくわかる。ビシャはニャーダ族でも特別と言っていいだろうな。


 でも、メビはニャーダ族の女だ。典型的なニャーダ族の女と言ってもいい。


 なにがどうとは恐ろしくて言えないが、ニャーダ族の男を従えているのは女たちと言っていいだろう。男たちが女たちから離れてマガルスク王国にきているのがいい証拠だ。


 ……ここなら女たちの手綱をもたれることもないしな……。


 まあ、ビシャとメビの父親は大変そうだけど、遊撃隊としてミリエルの指揮下から外れている。きっと自由に、のびのびとゴブリンを駆除していることだろうよ。


「雷牙。メビが無茶しないよう見ててくれな」


「それは大役だね」


 それ、無茶したら止めろってことだよね? おれ、まだメビに数回しか勝ったことないんだけど。


 ビシャにはまったく歯が立たないけど、銃での戦いでなければメビには三回に一回は勝てるくらい。でも、怒りモードの状態で勝てる気がしないよ。


「雷牙も鍛えているんだから大丈夫だよ。ラダリオンも褒めてたしな」


 セフティーブレットで最強強者はラダリオン。ビシャとメビが一緒に向かっていっても息を切らすことなく倒してしまう。


 おれはその光景を見てないが、ラダリオンにはよく相手してもらっている。だからわかる。ビシャとメビでも絶対に勝てないって。逆に勝てるヤツがいるなら見てみたいよ。ラダリオンは小さくなっても最強生物だもんな。


「まあ、雷牙は最強を目指す必要はない。ラダリオンやビシャを目指すだけ時間の無駄。お前は最強の補佐役を目指せばいいさ」


 ラダリオンと戦えば最強になりたいとか思えなくなる。だってもう別次元の存在だもん。アホらしいってなるよ。


「わかってるよ。おれはタカトの後ろにいて必要なときに前に出れたらそれでいい」


 最強の槍はラダリオン。最高の頭脳はミリエル。安らぎと食はミサロ。おれが誰かの代わりになる必要はない。挑む必要もない。おれはタカトの隠しナイフ。最後の牙。皆が見ているタカトを守るのが役目だ。


「頼りにしているよ」


 タカトに頭を撫でられ嬉しくなる。


 おれら駆除員だけの絆がある。まあ、駆除員は早死にするみたいだが、そんなことおれたちが絶対にさせない。


 タカトには内緒だが、おれたちだけで死ぬ順番を決めている。


 まずはラダリオン。ミリエルと続き、ミサロがタカトを連れて逃げ、おれはシエイラを連れて逃げる。そのあとはおれが槍となって敵を倒す。倒れたらミサロが四番手となる。


 シエイラと子供、タカトは絶対に死なせない。それがおれたちの絶対のルールなのだ。


「さて。最終ミーティングをやるぞ」


 勝つ気満々のタカトにうんと頷く。死ぬうんぬんは万が一のとき。魔王軍ごときに負けるおれたちではない。安全第一に動き、命を大事に勝利する。それがおれたちセフティーブレットである。

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