第1076話 *マリル*
その女を見たとき、敵だと思った。
おじちゃんといるといろんな種族を見るようになった。巨人、ドワーフ、エルフ、獣人と、もう新鮮味もなくなっているほどだ。
その女は獣人で、ニャーダ族と呼ばれるバケモノみたいな存在だった。
あたしも山を駆け巡り、殴り合いなら大人でも倒せる自信があった。でも、手も足もできなかった。それどころか手加減されてしまった。
「弱いね~」
悔しいが、あたしが相手できるのはゴブリンや人間くらいなもの。凶悪な魔物とかと戦ったこともない。弱いと言われても返すことができなかった。
「タカトといたいなら強くなくちゃならない。強敵がタカトの前を塞ぐからだ」
それは、なんとなくわかる。おじちゃんが語ってくれたから。
「タカト自身は弱い。戦闘力で言えばマリルより下でしょう。でも、タカトの強さはそこじゃない。それはわかるね」
うんと頷く。
おじちゃん自身も言っている。自分は強くない。笑ってしまうくらい弱いって。でも、おじちゃんの強さは違うところにある。そんなのあたしでもわかる。
「タカトは絶対に死なせてはならない存在だ。女神の使徒とかセフティーブレットのマスターだからとかじゃない」
「わかってる。おじちゃんは救いってことでしょう」
そんなの見ていればわかる。おじちゃんはいろんな人や種族を救っている。たくさんの希望を与えているのだ。
あたしたちだってそうだ。あのどん底から救ってもらい、貴族すら羨む暮らしをさせてもらっている。この暮らしを失いたくない。
なにより、おじちゃんはあたしたちを自分の子供だと言ってくれた。
本当の両親には申し訳ないけど、あたしたちはおじちゃんの娘であり息子だ。それが誇りだと思っている。
ただ、まだとうちゃんとは言えないでいる。だって、おじちゃんが偉大すぎて本当に言っていいのかわからないのだ……。
「そうだ。タカトが死ねばこの暮らしはなくなると思っていい。タカトの下なら種族に関係なく、豊かな暮らしができる。今、自分たちの暮らしを見たらわかるだろう?」
あたしたちはこの女ほどおじちゃんを見ていない。でも、その少ない時間でおじちゃんはたくさんの人を救ってきたのは知っている。
この女や皆がおじちゃんを信じている。おじちゃんはその信頼を裏切ることなく、仲間を救うためにセフティーブレットの持てる戦力をこの国に集めた。
無知なあたしだってわかる。それがどんな決断だったかが。
「タカトを死なせてはならない。セフティーブレットのすべての者が思う認識だ。だからと言ってあたしたちが死ぬことは許されない。タカトはセフティーブレットの誰一人と犠牲にしていない。そんな中で近しい者で死んだらタカトの誇りを汚すだけではなくタカトの心を汚すんだ。弱いヤツはタカトの側にいらないんだよ」
「あたしは弱くない! どんな敵がこようと勝ってやる!」
「その言葉、絶対に忘れるな」
「忘れるか! あんたにだって勝ってやるんだから!」
「おもしろい。いつでも相手してやるからかかってきな」
イヤらしく笑う女。こいつには絶対勝ってやる!
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