第1073話 プロパガンダ

 ラダリオンとメビが鍛えている間にマリットル要塞に向かった。


「ん?」


 結構な数の発信器を打ち込んだからか、誰かの通信を受信した。


 フリー発信、フリー受信だから誰でも聞ける。これはルースホワイトからマンダリン隊への通信っぽい。


「練習か?」


 意外と近くにいたんだな。もっとミルズガンよりにいるのかと思ってたよ。


 通信するか迷っていたらマンダリンが一台、横についた。レーダーを見てなかったとはいえ、ここまで近づかれるのがわからなかったよ。腕を上げやがって。


「マスター。マンサです。どうかしましたか?」


「練習中にすまない。ちょっと連絡するか迷っていた。急ぎでないのならマリットル要塞にきてくれ」


「了解しました。すぐに向かいます」


「ゆっくりで構わないよ。そう急ぎでもないから」


 魔王軍が動き出したとはいえ、連携もクソもない。緻密な動きもできずにグダグダだ。万単位が動くのに何日もかかるだろうさ。


「了解しました」


 マンサと別れ、そのままマリットル要塞に向かって飛んだ。


 移民が増えたようで、マガルスク王国側にも人が動いているのが見えた。


「なんかそれ以上に人がいないか?」


 どう見ても千人以上の人々が動き回っているように見える。そんなに連れてきたのか?


 要塞の見張り台にルースミルガン改を降ろすと、アルズライズやマグレットが迎えてくれた。


「またなにかあったか?」


「魔王軍が動き出したんで報告にきた。マリットル要塞も警戒してくれ」


「とうとう動き出したか。深刻か?」


「中で話すよ。あ、ルースホワイトもくるから通してやってくれ」


「わかりました。連絡しておきます」


「ちょっと真面目になったな」


「からかわないでくださいよ。司令官としてバカにされないよう必死なんですから」


「お前のよさをなくす必要はないよ。自分らしくやればいい。実力はあとから勝手についてくるよ」


 こいつには実力がある。見た目など気にすることもないさ。


「……おれ、そんな実力ありますかね……?」


「あるよ。ただ、その実力が発揮される場面がなかっただけさ」


 才能ってわからないものだよな。発揮できる場面がなければ才能は開花しないもの。ただ、言葉や行動の端々から見えることもある。こいつは、司令官としての才能がある。


「こいつの見る目は異次元の域に入っている。今は自信がなくても一つ一つこなしていけ」


 バン! マグレットの背中を叩くアルズライズ。戦闘タイプじゃないんだから止めなさい。


「ほら、現状の説明をするぞ」


 テーブルにマガルスク王国の地図を広げ、ホワイトボードに各地の写真を貼り出した。


「こうして見ると、マガルスク王国は小さいのですな」


「それがわかるからマグレットは優秀なんだよ。理解力が早く、想像力が高い。教える身としては大助かりだ」


「そう褒められるとくすぐったいですな」


「褒めた分、結果を出してもらうさ。マリットル要塞を守り抜いてくれ」


 まずは現状から話、リミット様からのアナウンスを話した。


「……なんというか、どこかの英雄潭を聞いているようですな……」


「そこにお前も入っていることを忘れないことだ。マガルスク王国が再興したらマグレットの名も刻まれるだろうよ。今のうちから自叙伝でも書いていたほうがいいぞ。子孫が喜ぶだろうよ」


「おれが英雄ですか。笑い話にもなりませんな」


 苦笑いをするマグレット。大丈夫。セフティーブレットとしても記録してプロパガンダに使わせてもらうから。


「悪い顔をしているぞ」


 おっと。顔に出てしまったよ。


「失礼します! ルースホワイトの方々をお連れしました」


 兵士がやってきて、アリサたちを連れてきた。早かったな。


「遅くなりました」


「急がして悪かったな。マグレット、椅子を用意してくれ」


 オレも座りたいので、椅子を用意してもらい、皆に缶コーヒーや紅茶、ジュースなんかを取り寄せた。余ったら司令部で飲んでください。


 落ち着いたらアリサたちにも現状とリミット様からのアナウンスを語ってみせた。


「十万匹ですか。なんだか少なく感じるのは傲慢でしょうか?」


「傲慢ではないが、もう二十三万匹を駆除しているし、二万三万とゴブリンを相手している。慣れはあるだろうな」


「気になることがあるのですか?」


「きっと歴代の駆除員は慣れた頃に不測の事態が起きて死んだんだろうな~と思ってな。オレはそれが心配なだけさ」


 傲慢も慣れもない。が、どこかナメているところがある。ただ、元来の小心がオレを繋ぎ止めている。油断はしない。館に帰るまでがゴブリン駆除だ。


「わたしたちが不測の事態を吹き飛ばします」


「遊撃隊を頼りにしているよ。不測の事態はどこにあるかわからないからな。見つけたら速やかに排除してくれ」


 遊撃隊に敬礼してお願いした。


「はい! お任せください!」


 全員が席を立って敬礼。それに笑って頷いた。


「では、それぞれの働きに期待する。安全第一、命大事に、勝てない相手ならさっさと逃げ出せ。死んだらそれで終わりだからな」


 やる気に満ちたアリサたちを見送り、オレも湖に戻るとする。


 見える脅威は遊撃隊に任せるとして、オレは見えない脅威を警戒するとしよう。

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