第23章

第1066話 アルカライナ

 朝、九時に飯場を出発した。 


 やはり放浪組すべでが湖に向かうことになり、何人かは昨日のうちに出発している。荷物が増えたせいで押し車を何台も作ったそうで、道が混雑するかもと半分を先にいかせたんだとさ。


「メビ。よろしくな」


「了解」


 メビにはRMAXに乗ってもらい、オレはルースミルガン改でついていく。


 何度も往来しているので、道はしっかりと堅められており、放浪組の歩みもスムーズだ。まだ全員に靴は行き渡ってはいないが、道がいいだけに昼前に山を越えてしまった。


 一応、ここにも町を造る予定なので、巨人サイズの小屋や竈があったりする。


 カロリースープと巨人パンで昼を済ませたらすぐに出発再開。巨人には休む距離でもないそうだ。


 湖に向かうにはランティアックの側を通る必要があるのだが、放浪組はなるべく人に見つかりたくないとのことなので、大きく迂回して進んでいる。


 ランティアックマリットル間は何度も往来し、発信器もそれなりに打ち込んでいる。もう頭の中に地図ができている。でも、放浪組が湖に向かうのはこれが初めてのはず。なのに、頭の中にGPSでも搭載しているかのように湖に向かっているのだ。


 陽が傾いてきたので、川の近くで野営することにする。


 オレらも野営の準備を始め、テントを立てたら湖まで飛んでみた。


 この周辺にも発信器は打ち込んであるので暗くても問題なく飛べる。でも、そこまで大きい湖でもなく、これと言った特徴もない。軽く流していたので映像には残していないのだ。


「あれか?」


 プランデットで周辺を探ると、ストーンサークルみたいなのがあった。


 その日は場所だけを確認したら野営地に戻った。


「メビ。オレはホームに入るな。なにか欲しいものはあるか?」


「大丈夫だよ」


 うんと頷いてホームに入った。


「あ、タカトさん。バデットがミルズガンに集まり出しました」


「お、動き出したか」


「はい。でも、ゴブリンは動き出してはいません。まずはバデットでミルズガンを荒らすのでしょうね」


「そうだな。様子を見て、倒せるなら倒してもいいし、ミルズガンに任せてもいい。ミリエルの判断に任せるよ」


 もうベテランの域。苦戦することもないのだからあれこれ命令する必要もないだろうよ。


「はい。こちらは大丈夫なのでお任せください」


 あとは夕飯のときに話すとして、ガレージに積んである巨人パンを外に出した。


「メビ。ちょっと運動できるか?」


「うん。ゴブリン?」


「ああ。五、六十匹くらい集まり出した。静かに駆除してくれ」


「了ー解! 最近、運動不足で眠りが浅かったんだよね」


 散歩にいかないとダメな犬かな?


「メビ一人でやるか?」


「うん。あたし一人でやる。就寝前の運動にちょうどいい───」


 そう言って暗闇の中に消えていった。


「……元気な娘だよ……」


 オレの周り、元気なのばっかりだな。その元気をオレにわけてくれ、だよ。


 暗闇に隠れるゴブリンを次々と駆除していくメビ。プランデットなしでよくゴブリンの位置がわかるものだ。月も出てないのに。嗅覚で位置を確認してんのか?


 三十分もしないでメビが帰還。爽やかな笑顔が恐ろ頼もしいよ……。


「ご苦労さん。風呂に入るか?」


「大丈夫。湯上がりが面倒だから」


 風呂に入るのに抵抗はないが、ニャーダ族は耳と尻尾は毛で覆われている。設備がないと湯上がりはなかなか面倒らしい。


「そっか。湖に着いたら入るか」


 放浪組も何日かに一回は風呂に入っている。湖に着いたら風呂にでも入ってたもらうとしよう。


 オレはホームに入り、皆とミーティングしてすぐに就寝。オレは酒を飲めばぐっすり眠れるんです。


 朝は簡単にカロリーバーで済ませ、湖に向けて出立。ずっと歩いたお陰で夜には湖に到着できた。


「放浪組の脚力、とんでもねーな」


 夜も遅いのでその日は集まって就寝し、朝になったら肉入りシチューを作って疲労を回復させた。


「ここが、アルカライナの地か」


 朝飯も終わり、少し食休みをしたのち、族長がストーンサークルに向かった。


「なんか謂れのある地なのか?」


 族長とは未だにしゃべってないのでタダオンたちに尋ねてみた。


「巨人族が発祥した地とされている。人間が住む前、さらなる昔に巨人族はここで生まれ、繁栄したそうだ」


 はっきりとした確証はないが、これまでの話からして、最初の人類は巨人。次にドワーフ。エルフと続いたんじゃないかと思う。獣人はエルフが創り、人間はダメ女神が創ったんじゃなかろうか?


 三回もやり直してすべての種族が生き残るのもおかしなもんだが、あのダメ女神だからと言われたら納得するしかない。あれは生命を生み出したらダメな存在だ。


「ここを探していたのか?」


「いや、そういう言い伝えがあったというだけ。あるのなら見たかっただけだろう」


 違うんかい! てか、観光しにきただけかい!


「昔を思い出すようなものはあるのか?」


「さてな。おれにはよくわからん。年寄りの感傷かもな」


 放浪組でも一族の掟を絶対視しているわけではない。ただ、そうするしか生きる道がない、ってことなんだろうな~。

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