第2話仙丸



赤い熊の赤ちゃんに名を付ける。


その名は『レディー』だ。


なんとメスだと判明して、そんな名にした。





そんなレディーが「ウー、ウー」と唸りだす。


「レディーも分かるのか・・・」


気配を感じて記憶から青鬼だと導きだす。

人を引き裂いて喰らう亜人らしい。


肌も鉄のように硬い。

高さも大人なら3メートルを超える。




その青鬼3体が木をなぎ倒しながら出てきやがった。


「グガーー!!ガガ」と雄叫びを発した。


え!レディーが動いた。

なんの迷いない速い動きで青鬼を翻弄ほんろうしてるぞ。


足で何度も踏むがサッとかわされている。


青鬼の足にジャンプして駆け上がって、そのまま首を噛み切る。

凄い勢いで青鬼は倒れる。

すでにレディーは飛跳ねていて、次の青鬼の首筋に喰らいつく。

そして噛み切った。



残った青鬼は激怒。

レディーに向かって殴る構えを見せる。


しかし腹に大剣の気魂きこんが通り過ぎる。

青い血を流しながら、もんどり打って倒れる。


ああ、頑丈な体を切断するとは、凄まじい威力だ。



え!レディーが青鬼を喰ってるぞ。

顔は青い血で汚れながら・・・


1体を喰い終わって隣に飛びつく。


あれよあれよと3体を喰ったぞ。

それにレディーの体が急に大きくなってる。



全長40センチが2倍の80センチになってる。

嫌々、その80センチの体に3体の青鬼を喰えるハズがない。

体積が違い過ぎる。



あの老人の記憶をたどるが、そんな記憶もない。

あ!もしかしたら気魂をレディーに注入したから突然変異を起こす体質にしたかも・・・


そう考えるしかない。





あれから2日目で村へたどり着いた。


なんだか活気がない。

それもそのはずで伝染病が蔓延まんえんしているからだ。

これも天武神魂てんぶしんこんがなせる力らしい。

病気のウイルスの微生物がなんとなく見える。


嫌、感じると言った方がいいだろう。


それでもレディーを見た村人は、驚き叫びながら家のドアを「ガシャン」と閉める。


レディーも成長して全長3メートルになっていた。

そりゃー怖がる。


「皆さーん、私は神仙の使いです。病気を治しに来ました。この熊が村まで案内したので怖がらないでください」


嘘も方便だ。

老人の記憶から、それらしい話を作った。



ふらつきながら出てきた村人達。


そんな村人を1人1人見ながら天武神魂のウイルス破壊を発動。


「あれ・・・なんだか楽に・・・ありがとう御座います」


「私の赤ん坊を治してください」


ああ、死に掛けているぞ。

赤ん坊の横には、死神が立って見ている。

これはヤバイ!。

急いでウイルスを破壊尽くす。

あ!死神が消えた。


少し顔色が良くなったぞ。

気魂きこんを注入すれば治るが止めた。

何が起きるか分からないからだ。


レディーみたいに成長したら怖過ぎる。

なので道端で取った薬草を見せる。



「皆さん、この薬草を集めて来てください。これを使って仙丸せんがんを作って飲ませると体力が回復します」


10人の大人を治す。


「それでは神仙さま、取って来ます」


何度も何度も御辞儀して村を出て行った。




戻って来る間に薬草を使って、赤ん坊の仙丸を作る。


作り方は簡単だ。

土鍋で細かく切った薬草を低温でゆでる。

十分にエキスが出たら薬草を取り出す。


そしてゆっくりと煮詰めて、焦がさないのが秘訣だ。

焦がしたら効力がパーだ。


水分が飛んで粉っぽくなった。


土鍋を火からおろして仙丸にして赤ん坊に飲ませる。


急に泣き出す。


「これで大丈夫です」


「ありがとう御座います神仙さま」


「この仙丸を作って販売していいですよ」


「え!・・・・・・それは本当によろしいのですか・・・神仙さまに迷惑をかけませんか・・・」


どうせ道端に生えているから・・・





伝染病で苦しむ人々が、この村へやって来た。

いやー・・・噂があっという間に広がっていた。


まあ、ただ飯を食ってるから断れない。


だから来る人は、全て治す。


そして村は仙丸をドンドン売って、この村はドンドンと繁栄していった。


この辺では有名な貧乏村だったのに・・・仙丸を買い求める商人までやって来る。

それも御用商人で大量に買って帰ったよ。


なんでも医療が発達していなくて、針治療と漢方薬だけなんだよ。

嫌々・・・盲腸になったら死は確定だよ。


腹を切って盲腸を切り取って縫って、腹も縫えば治るのに・・・


痺れ薬は、なんとあった。

だから麻酔にも使えるぞ。


この痺れ薬は、矢につけて狩りに使っているだけだった。


これは勿体無い。



この世界は、腹を切る治療手術のない世界だ。

やったら野蛮と罵られるかもしれない。




村長「これからはヤブ村を改めて仙丸と名乗ることにしたぞ」


56人しか居ない村が1000人を突破。

病気治しに来て、そのまま居ついた。


その勢いは止まらない。


家も新しく建っていた。



俺が農業指導して、穀物や野菜がドンドン育った。

肥料の知識がまったく無い。


俺は園芸が好きだから色々知ってるぜ。

ラベンダーの水やりは俺の日課だ。


肥料に必要なのは窒素、リン酸、カリウムだ。


作り方は、米ぬか、油カス、カキ殻石灰を3:1:1の割合で混ぜて発酵させる「ぼかし肥料」だ。


20キロ離れた場所に海があった。


油カスは商人に無料で頼んだ。

嫌なら仙丸を売らないと言えば、喜んで運んできた。



人が増えてドンドン街が発展している。


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