第11話
一年ぶりの「春」という神獣の輝きが放たれる。
僕らはその光に惚れ、輝きの心臓部である桜の下で過ごしていた。毎日、辛く苦しい日々もこの春の輝きで流れ落ちて、君といることで心の中にさらなる安寧が広がった。
おそらくそこで僕は君のことを好きになったのだろう。
今日もいつもの集合場所に足を運んだ。
桜の輝きが少しばかり衰えてきたこの頃。春の鼓動をしっかりと聞きながら、空を見上げる。
「綺麗だな、この空。いつまで経っても色褪せずに僕らを包み込んでくれる」
ふと呟いた。この言葉が君に届いていない事を考えると自分がしていることが少し馬鹿らしく思えてきた。
『はるこい、ーーーーこんな物語があったのなら、どれほど良かったことか。』
僕はそこまで書いて、筆を落とした。もう書く力も握力も無くなってしまった。日に日に、筋力が衰えていく。君と過ごした日々の中では、ハリのあったこの肌も今となっては頬の筋肉がたるみ、乾燥していた。
「もっと、書きたかった」
僕は、そう零していた。誰も聞いていないというのに。
いや、僕の中には未だに君が残っているんだ。
ゴホッ、、、
胸が苦しい、これで何度目だっただろうか。もう思い出せない。君が僕の傍にいなくなったあの日から、ずっと。
思わず、力んでいた筋肉が緩み、僕はベットの上に倒れ込んだ。
目が霞む、見えるのは斜陽の光によって映り込んだ桜の桃色だけ。
もっと書きたかった。君と過ごした数年間を。空想で創り上げた君との日常をも全て、書き上げたかった。でももう、書けそうにもない。僕と君の日々を描いた夢小説。事実とは異なるかもしれないけど、僕なりに表現したつもりだ。
春に恋し、ハルに恋し、春よ来いと待ち、ハルが僕の元へ来ることを待ち続けた僕のこの人生に悔いは無い。
『静次』
掠れた目が潤む。もう聞くことは無いと思っていたあの声。
『私を想ってくれてありがとう。これからはずっと一緒だよ!』
そこには、君が居た。
もう動かない僕の掌を握る君が居た。
声を出そうにも、もう声が出なかった。
『思い続けてくれてありがとう?馬鹿、ずっと衰えねぇよ、この想いは。君を好きというこの感情は』
そう内心呟いて、僕は君の掌を握り返す。その瞬間、君は僕の手を引く。僕を家から連れ出したあの日のように。
『静次!見ようよ、桜。もう一度、二人で!』
『だな!』
現世では無い、どこかの桜の大樹の下で二人の少年少女が笑っていた。
春になった花たちのように。
はるこい 霜雪 栖桃 @Sumomono082
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