第5話
春の陽気も夏の燦々としたものに変わりかける前、僕はすっかりあったかくなってしまった朝焼けを眺めていた。桜もとっくの昔に散って、葉桜として生え変わってしまっている。
まるで、大人になっていくかつての子どもたちのように。
だからこの季節に『子どもの日』というものがあるのだろう。そんな日があると知っていても時を跨がないと、自身の成長なんて気が付かないものだ。
葉桜の下で、哀愁を感じていた。朝という哀愁を感じることも少ない時間に。
「もうすっかり、夏への下準備が整っていくね」
僕の膝の上でふて寝をしていた君はふとそう呟く。
その瞳は楽しそうではなかった。春の終末がすぐそこまで迫っていることを悲しんでいるようだ。
「私達の季節が終わっちゃうね」
「ハルはまだ分かるけどなんで僕も?」
僕がそう返すと、君は葉の間から見える空を見上げながら言った。
「えぇ、、難しいなぁ、、」
「考えていなかったのか」
「うーんと、次の季節まで静かに過ごせるって感じかな」
その言葉に対して僕は持った疑問をそのまま口にする。
「それどの季節にも当てはまらない?」
「いや、夏は祭り、秋は行事、冬は年末年始のお祝いがあるじゃん。大きく区分けしたらイベント続きじゃん」
「そうだね」
僕が肯定すると、君は僕の頬を掴み顔を引き寄せる。そして微笑むと言った。
「春は出会いと別れ。その2つが絡み合う時ってどうしようも健やかに静かに過ごそうとするもんだよ人って。だから静次は私と一緒の春を象徴できるの」
「だいぶ、こじつけの感じもするけどね」
「それが解釈の広げ方の面白味!」
僕の目を見て元気良さそうにそう言う君。全く、心がまたあったまってしまうよ。
全てが希望に塗り変えるように憂鬱な日々が輝き出した。
「綺麗だな、この景色は」
「だね」
命の集大成とも言える春の最後の灯火を五感で感じた僕ら。いつもの樹の下でただ時間が経つのをゆっくりと川のせせらぎのような感覚に身を任せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます