青鬼のおじちゃんとの再会

俺たちは5年前の夏にもこの「青鬼のおじちゃん」と出会っていた。

5年前の夏、俺たち兄妹は母の故郷である自宅からそう離れていない漁村に訪れていた。当時の俺は中学三年生、妹の美羽は中学一年生。その漁村にある母方の祖父母の家に遊びにきていた。

そこで俺たちはひょんなことから海難救助をすることとなり、遭難者を救うべく、それこそ命懸けで次々に遭難者の命を救っていったのだ。

俺たち兄妹は、無我夢中で何度も何度も海へ潜り遭難者を捜索し、体力配分など全く考えず、時には自身の体に傷を負うことも厭わず遭難者の元へと潜り続けた。

遭難者全員の命を繋ぐことができた頃、その安堵と共に俺たち二人は力尽き、海中を漂うことなる。

その海中を漂っている時に遭遇し、助けてくれたのが、今目の前にいる「青鬼のおじちゃん」だ。

青鬼のおじちゃんは体長5メールを超えるまさに巨人、全身は紺碧の海を思わす真っ青な肌を持ち、額には10センチほどの反り上がった2本の角を持っている。その異様に初めて出会った時にはかなりパニックを起こしたが、全身から漂う優しげなオーラと低くはあるが穏やかで諭すような喋り方が、俺たちを徐々に会話ができるほど落ち着かせていった。

その時におじちゃんから言われたことを今でも覚えている。

「主らの行いは全て見させてもらった。残念ながら主らの善行はその命を失う結果となった。しかし、他の命を尊ぶ心根、我が身を顧みず助けようとする行動、勇敢さ。だが少々無謀である。我は主らを気に入った、故に主らのその危なかしい勇敢さの一助となるように困難に打ち勝つ丈夫な身体と、元の生活に戻れるよう新たな命を授けよう。」

そして俺たち兄妹は車に轢かれてもかすり傷負わない丈夫な体をもらい、生き返ることができた。


…そしてそれからの5年後の現在。懐かしい「青鬼のおじちゃん」との再会である。

『やはり主らも巻き込まれたか…』

「何の話?」

『単刀直入に言おう。心して聞いてくれ……。今この地球は異世界の魔物たちから狙われている。手始めにここ日本を攻め滅ぼし、それを足がかりに世界を蹂躙していく腹積りのようだ。今回お前たちはその手始めの襲撃に巻き込まれて、命を落とした』

「「ほえっっっ!?」」

あまりに荒唐無稽なおじちゃんの話に、俺たちは素っ頓狂な声をあげてしまった。

『グッ、ぶっ!』『ぶっははははっ!』

『い、いやすまない。平和な日々を過ごしてきた主たちにいきなり突飛な話だとは思ったが、つい先ほど小鬼たちに嬲り殺しにされたばかりなのに、主たちのあまりにも緊張感のない反応が予想できず、思わず笑ってしまった。許せ…』

おじちゃんは肩を小刻みに揺らしながら、必死に笑いを堪えながら謝罪して来た。

「いや、それはいいんだ。周りからお前たちは緊張感に欠けるだの、天然兄妹とか散々言われているんで……。それより今朝襲って来た緑色の小鬼どもは、さっきの話に出てきた魔物ってことだよね?」

『……その通りだ。主たちを襲った異世界よりやって来た魔物どもは、現在主らが住む町の近隣にある山岳地帯に巣食っていて、本日早朝より一斉に襲撃を始めたのだ。その時主らもそれに巻き込まれ、命を落としたのだ。』

「そうか……。やっぱり私たち死んだのね…。だけどおじちゃん、なぜ襲ってきた魔物のこと知っていいるの?」

『我は元を正せばその魔物たちのいる異世界を治める統治者だったからだ。』

「統治者?だった?」

『そうだ。まだ我が異世界の統治者だったころ、異世界は絶滅に瀕する深刻な環境問題を抱えていた、その問題を解決する案として、我の配下はこの地球への侵略の話を持ちあげてきた。我は侵略行為などもってのほかとその案を一蹴した。ところが配下どもはそれを不服に思い。多くの賛同者を集め、いわゆるクーデターを起こし、我は統治者から更迭されたのだ。クーデターなど力でねじ伏せようと思えばねじ伏せられたが配下の民を思う心も理解できたので、素直に更迭に応じた』

「それでこの地球にやってきたと?」

『そうだ。だがすぐに地球に来たわけではない。更迭後暫くは異世界に留まり様子を見ていた。配下たちは地球への侵略と簡単に言うが、そう容易いものではないことも承知していた。計画には時間がかかる。それに地球に向かうにはゲート呼ばれる異空間を利用した異世界と地球を繋ぐ道を用意しなければならない、我以外の者では容易く作れるものではないので、侵略までまだ時があると考え、統治者を更迭された後もあきらめず環境問題の解決策を必死に模索した。しかし考えた以上に早く地球侵略が実行され始めたのを知り、配下の愚行を阻止すべく急遽この地球にやってきた。それが5年前のことだ』

「5年前?あの海難事故と同じ時期?」

『そう、我が主たちと出会った時には、異世界からの侵攻はもう始まっていた。異世界から地球にやってくるには先ほど話したゲートと呼ばれるものを通ってくるのだが、一度に大量の魔物を送り出すことは出来ない。ひっそりと時間をかけ着実に兵たちを送り続けていたのだ。そして現在魔物たちは動き始めた。そうなる前に我が阻止つもりであったが、間に合わず、主らを巻き込むこととなり本当に申し訳ないと思っている』

「なるほどそういう経緯が…。あっでもおじちゃんが謝ることじゃないよ。もしもこの地球が異世界と同じ状況で、他の世界を侵略することでみんなが助かるなら配下の人たちと同じ行動を起こす人は必ず出てくると思うし……。ところで異世界の環境問題ってなに?地球でも温暖化とか深刻な問題もあるし同じようなもの?」

『フフ。主はお人よしだな…。そうだな異世界の環境問題は地球とは一部共通点はあるが別物だ。異世界で問題となっているは「魔素」の深刻な減少だ』

「魔素?」

『地球でいう酸素みたいなものだな。地球では酸素がないと生きてはいけない。それと同じでこのまま魔素が減少し続けると異世界の魔物たちは死に絶えることなる。だが魔素はこの地球でも存在し溢れるほど満ちている。地球の生物は魔素を必要としないからだ』

「なるほど…。でも地球からその魔素を異世界に届けるてことは出来ないんだよね?」

『気持ちはありがたいが異世界と地球を繋ぐのは先ほど話したゲートだけなのだ、そのゲートで魔素を送り届けようとしても微々たるもので、地球とほぼ同じ大きさの異世界では焼石に水程度にしかならない』

「地球と異世界の住む場所を交換するにしても、異世界では植物の減少で酸素も不足しているからダメか…。それじゃ平和的に話し合いで異世界の魔物たちを地球で受け入れるのは?」

『異世界には地球には及ばないがおよそ60億の魔物がいる。その全てではなくても15億は移住しなければ異世界は持たない。仮に15億を受け入れられても次に食料問題が必ず勃発する。我の配下もそれがわかっているから、もしも受け入れられたとしても、後に食料問題で争いが起こるより、不意打ちのできる今の侵略を選んだのだ』

「そうかぁ。本当に八方塞がりだね…。それに話し合おうにも戦いの火蓋はもう切られているし…。今はもう戦うしかないのね」

『だがこの侵略だけで考えるのなら、侵攻を止める手立てだけはある。我を除くと異世界でただひとりとなるゲートを作れる術者を拘束し、異世界と地球を繋ぐゲートを破壊する。我が発現させたゲートなら容易いが、他の者が発現させたゲートを破壊するには時間がかかる…。今となってはもっと早期に決断すべきだった。』

「ゲートの破壊…。なるほどそれなら侵攻したくても侵攻できないよね。そもそもそのゲートの存在がなければ、侵略という発想すら出てこなかったんだから…。」

「ゲート…。おじちゃんそのゲートのこと詳しく教えてくれない?」

『そうだな、地球の人間はその存在すら知らないだろうから。説明するにあたって地球の知識と照らし合わせると、ゲートとはいわゆる主らが知る魔術と同じだと考えてくれ。』

「魔術?ファンタジー系の物語とかによく出てくるあの魔術のこと?」

『そうだ。ゲートを発現できるのはこの世で二人しか存在しない。その二人のうち一人は我であり、そしてもう一人が我の愚息だ。』

「へー、おじちゃん息子さんがいるんだ」

『その息子が我を更迭した者たちの首謀者である。ゲートの話に戻そう。ゲートはその魔術を利用して異世界と地球との空間を一部捻じ曲げ掘削したトンネルのようなものだ。そのトンネル内ではほとんど時間が経過することはなく、瞬時に異世界から地球へ移動することができる。ゲートは一人の術者から同時に二つ以上存在させることはできない。またトンネルと同じでゲート穴を大きくするほど、より時間をかけず多くの軍を送り込むことが出来るのだが、大規模なゲートは大量の魔素を使用するため、魔素の少ない異世界では小規模なゲートを生成するのが精一杯だったようだ。そのゲートが生成されたのを知り我は愚息が地球侵略を決断したと判断し、隙を窺いそのゲートを通って我はこの地球へとやってきたのだ。』

「なるほど。それでその小規模のゲートは一度にどれくらいの魔物を送り込むことができるの?」

『うむそうだな、単純に考えれば1日あたり三千体送り込むことが精一杯だろう。だが食料や日本での拠点作りなどの兵站を考えると、魔物を送り出せば出すほど兵站は増加し、それを運び込む時間もかかるだろうからその数はあまり参考にはならないがな』

「そうか、それで襲撃まで5年も時間がかかったんだね…。いやでも地球には大量の魔素があるんでしょ?魔界で小規模なゲートを作って地球にやって来たら、すぐさま地球側で大規模なゲートを作り直せばよかったんじゃない?」

『そうだな。だがそれは出来ないわけがある。ゲートは発現させた瞬間そのゲートに吸いこまれるような光の渦ができる。大規模なゲートともなれば、その光の渦は広範囲に渡る大規模なものとなる。ゲートの存在を知らない地球でもそれほどの異変が起きると、間違いなく日本はすぐさまその異変を調査することになるだろう』

「なるほど、そうなると秘密裏に侵攻出来なくなるね。今はゲートを作り直さないけど、侵略が本格化した時点でゲートを大規模なものに作り替えるつもりなのね」

『そういうことだ。大規模になればそれだけゲートの破壊も困難になりより時間もかかる。だからゲートを作り替える前に我はゲートの破壊を急がなければならないのだ。』

「それじゃおじちゃんがゲート破壊するまで俺たちが日本を守ればいいんだね?それでおじちゃん、俺たちはあの時の海難事故の時と同じように、生き返れるの?」

『それは主たち次第だ…』

「俺たち次第…?」

『確かにあの海難事故で主らは死からの復活を果たした。だが我が授けた能力は復活だけでは無い。死に至った要因。あの時は、主らの体力不足やあちこちに傷を負わざる得なかった身体の弱さを、再度同じ状況になっても十分に耐えうる強靭な身体へと再構築して生還させる。それが我が授けた能力である。簡単に言うと一度死んで復活すると、死ぬ前より強くなって生き返る。そのことは話したな?』

「うん、かなり頑丈になってたよ。周りにそれを気づかれないようにするのが大変だけどね…」

『フッ…。だが、今回はあの時の海難事故とは状況が違い過ぎる。あの海難事故の2回目は強化された身体と死する前の経験があって、難なく救助を成功させているが、今回の魔物の襲撃の恐ろしさは敵の数だ。一度敵を退ければそれで終わりではない。異世界自体の存亡がかかっているため、今ままで争っていた魔物たちも今は手を組み一丸となり死に物狂いで襲ってくる。我の見立てでは少なくとも15億はこの日本に襲来してくると考えている。撃退しても次から次へと主らの世界を襲ってくるのは間違いない。ゲートを速やかに破壊できれば別だが、恐らくそれは難しい。復活を望むのであれば間違いなく主らは、今後苦痛を伴う死を何度も体験する可能性が高い。』

「俺たちの大切な人たちを守れるなら何度だってその苦痛に絶えてみせるさ…。でもごめん!守るためにはおじちゃんの同胞を殺すことになる。」

『そうだな。だが理由があるとはいえ一方的に侵略してきた同胞たちに同情の余地は無いと我は考えている。むしろ同胞の不始末、本来なら我が出向いて対処せねばならぬところ主らに任せて申し訳なく思う。我はこの戦いの要因であるゲートの破壊に専念するので手を貸せぬ、悪いとは思うが主らの町の防衛は任せる。どうかよろしく頼む』

「「わかった!ありがとうおじちゃん!」」

「ところでおじちゃん、5年前に聞きそびれたこと聞きたいのだけどいいい?」

『ああいいとも。なんだ?』

「おじちゃんは神様なの?」

『神か…。そうだな主たちの概念からすると、そう呼ばれてもおかしくはないな。異世界でもそのような存在だと思われていたようだからな。だが、厳密に言うと元神と言った方が良いがな。』

「元神?」

『ああ、元神だ。我は異世界を創造した。今はその頃の超常の力と永遠の命を捨て、魔族へと身を落とした。だから元神だ。主らの地球を想像した神もいたぞ。それは我の姉だ。姉も我と同様地球の住人人間へとその身を落とた。だが天寿を全うしてもうこの世にはいないがな』

「………そうなんだぁ。おじちゃんのお姉さん一度会ってみたかったな」

『ああ、我が姉も主らとは気が合いそうだ。きっと可愛がられていただろう。人間たちを守ろうとする我のおこないは、姉が愛した人間たちを我の星のものが攻め滅ぼすのを黙ってみておれなかったこともある。人間たちを愛した姉のためにも、そしてその愚弟である我のためにも力を貸してほしい』

「うん!力の限り頑張るよ!」

『ああ、頼んだぞ』

そして俺たちはおじちゃんとの邂逅を終え、眠りに落ちるように意識を手放していくのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る