立花大吾
『2XX1年7月25日 午前7時』
その朝、俺はいつもの様に目覚め。いつもの様に着替えを済ませて、朝食をとるため二階の自室から一階までの階段を降りる。その日の朝までは何事もなく穏やかな日常を過ごしていた。
現在、俺は防衛大学の2年生。夏休みで実家に帰省している。
階段を降りると玄関先に妹の美羽がいた。夏休みにもかわらず、高校の制服を着て玄関で靴を履いているところだった。
「おはよ〜兄ちゃん。二十歳の誕生日おめでとう!」
「おっ、おはよ、そうだ今日から俺は大人の仲間入りだったな。ありがとう!それはそうとお前は夏休みなのに朝練か?」
「うん、そう!この大会は高校生としては最後だからね。優勝目指すなら時間なんていくらあっても足らないよ」
高校3年になる空手部の主将でもある美羽とそんな他愛もない会話をして、美羽は玄関から飛び出して行った。
美羽が玄関から出ていった直後。
「いっったーーーい!!」
突然美羽の叫び声が外から響いてきた。俺たち兄妹は人には言えない諸々な事情があって普通の人より何倍も身体が頑丈にできている。もしも車に轢かれたとしてもケロッとしているはずの美羽がなぜ?
「どうした!?」
瞬時に俺は玄関から外に飛び出した。
そこには、緑色の肌をした体の大きさが小学生3年生ほどの小鬼が美羽の腕に噛み付いていた。
その美羽と小鬼のすぐ背後には、美羽の腕に噛み付いていた小鬼と全く同じ容姿の小鬼たちが、無数にいた。その小鬼たちはギザギザの歯を剥き出し、悪意のこもった笑顔を見せながら、美羽にジリジリと近づいて来ている。
俺は一瞬呆けたが、小鬼に噛み付かれた美羽の腕からボタボタ血が落ちている光景にすぐに我に帰り、すぐさま美羽の腕に噛みついている小鬼を渾身の右ストレートで吹き飛ばす。
「ゴキッ!」
俺の拳は小鬼の顔面にめり込んだ。小鬼は一度地面に激突してバウンドし、5メートルほど吹っ飛んで、その場でピクピク痙攣していた。
すぐに家の中に避難をしようと美羽の手を引くが、後ろに控えていた小鬼たちにすぐさま囲まれ、俺たちはやむ無く小鬼たちを迎撃することとなる。
応戦中横目で美羽の様子を伺うが、先ほど噛まれた右腕が痛むのか、かなり苦戦している。
俺たちにとって小鬼たちはさほど強くは無いが数が多すぎる。ざっと見渡したが家の前の道路を埋め尽くすように小鬼たちは群がっていて、どうやら道路の角を曲がった先にも小鬼たちはいるようだった。
どれぐらいの時間が経過したか必死すぎてわからないが、恐らく俺と美羽で50匹近くは倒したあたりで、ついに二人の体力の限界が来る。そこから俺たち二人は小鬼たちの波に飲み込まれていき、すぐに身体中を襲う激痛が走る。痛みは瞬時に去り、その後意識が混濁していき、やがて目の前が暗転して行った…………。
………どれくらい意識を失っていたのだろう?
閉じられた瞼をゆっくりと開いていく。あたりは薄暗く水の中にいることに気づく。いきなり水中にいて、パニックを起こし、しばらくもがいていたが、呼吸も通常にできていることに気づき、徐々に冷静さを取り戻す。
水の中にもかかわらず普通に呼吸ができている。摩訶不思議なこの状況…。俺たち兄妹は5年前にもこの状況を体験している。
周りを見渡す。そこには水中に横たわる美羽が水の動きに合わせて揺蕩っていた。
見たところ外傷らしきところは見当たらず、胸部が上下運動を繰り返していたので、呼吸もしているようだと気づき、ひとまずホッと息をつく。
ともかく俺は美羽を起こすことにした。
目覚めた美羽が覚醒後できるだけパニックを起こさないように、普段と変わらない調子で美羽に声をかける。
「美羽起きろ」
美羽の肩をゆっくりと揺らす。
「ん。兄ちゃん?」
美羽は目を覚まし、しばらく呆然としていたが、やがてこの状況を把握したのか、ゆっくりとした口調で俺に尋ねてくる。
「この状況、前にもあったよね?」
その美羽の言葉に反応するように俺たちの頭上から声が響いてきた。
『主ら目覚めたか』
「「あっ。青鬼のおじちゃん!」」
息ぴったりの俺たち兄妹のセリフに、青鬼のおじちゃんと呼ばれた全身を海のような青で染めた大男が苦笑する。
『主らは変わらんな…』
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