勇者、日本に帰郷する
授与式を終え、僕は勇者となり、いよいよ異世界を救うための作戦が始まった。
そして今、勇者となった僕は再び日本の地を踏んでいた。
日本の屋根と謳われる山岳地帯の山々の一角、その頂上より遥か遠くに見える街並みを望みながら僕は感慨に耽る。
普通の人間なら米粒程度しか認識できないその遠くの街並みも僕の能力を使えば、ビルや建物の形状がはっきりとわかるほど近くに見える。
「ふふっ。まさかこの日本にまた戻れるとは思わなかったよ」
今僕が立つ標高の高い山頂に夏特有の植物の匂いを含んだ、爽やかな風が吹き抜け、僕の頬を優しく撫でる。まるで僕が異世界の勇者となって戻ってきたのを喜んでいるようだ。
爽やかな風とは裏腹に、まだ勇者と呼ばれる前の日本にいた頃に起きた、腹立たしい出来事を思い出し、僕の眉間に深く皺がよる。
「立花大吾。君だけは絶対に許さない」
「だが僕にはやらなくてはならないことがある。まずはなんとしても異世界のみんなを救わなければ…」
そう呟く…。今異世界は絶滅の危機に瀕している。その危機を取り払うべく、たった今僕はこの日本に舞い戻って来た。
この日本は異世界を救う鍵となる。
異世界に残された時間はあまり無い。あと10年ほどで異世界に住む全ての住民が死に絶えると言われている。
だが、絶滅の危機を取り払うのは容易なことでは無い。計画では満を持すため下準備におよそ5年の歳月が必要だ。
僕は異世界から連れて来た仲間たちに檄を飛ばす。
「一刻も早くみんなの世界を救うために全力を尽くしてくれ!もちろん僕も死力を尽くす!みんな頑張ろう!」
仲間たちはやる気に満ちた表情でそれぞれの持ち場にかけて行った。僕は満足げにそれらを見送る。
のんびりしている暇はないと分かっているのだが、日本に戻れた喜びからか、日本の高校生だった幸せな頃を思い出す…。
異世界転移直後は不安で仕方なかったが、今では勇者として讃えられ、異世界を救うための使命を帯びることとなる。奇しくもその使命は達成と同時に、諸外国の脅威にまるで動こうとしない日本政府と立花大吾への報復ともなる。それを思うと自ずと拳にチカラが入る。
「見てろよ政治家ども、そして立花大吾…」
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