皇帝 青鬼2世
今、私が皇帝を務めるこの世界は滅亡への危機に瀕していた。
地球でいうところの酸素にあたる「魔素」が著しく減少しているのだ。地球上の生物が酸素が不可欠であるのと同様に、この世界の生物は魔素を必要としている。その魔素が数十年前から減少が著しくなり、後十数年で尽きてしまうことが判明した。
その原因はすでに解っている。それは魔物の数の増加に伴い居住区の開拓が進み、魔素を生成する植物の生息地の減少が原因だ。ならば魔物の出生率を落として、植物の生息地を拡大すれば良いと考えた者もいたが、今の異世界にいる魔物の数だけですでに過剰なのである。植物の生息地を増やすといえど限られた土地で目一杯植物を増やしても焼石に水の状態であった。
魔素の需要と供給のバランスを保つには今の魔物の総数の4分の1を減らす。つまり今の総数60億から45億まで総数を減らさないと保てないことが判明した。
前の皇帝である父はそんな状況を解決するために植物以外で魔素の産出はできないだろうかと模索していたが、私は父とは違う案を提案していた。それは地球への侵攻であった。地球は魔素が豊富にあることがわかっている。地球上の植物も異世界同様魔素を生成するが地球上の生物は魔素を全く必要としないから手付かずのまま残っているからだ。
父は私の提案を一蹴した。反対されることはわかっていた。だから私は準備していた。帝国の宰相を元とする大臣たちの賛同を。もし父からの反対を受けた場合は即座に父に皇帝の座から降りてもらうための準備をしていたのだ。そしてそれは現実のものとなる。
私は前皇帝で父でもある青鬼帝を更迭し、現在この世界の皇帝の座にいる。
父は更迭を告げる私たちを悲しげな目で見まわし「そうか」と一言告げ、野に下っていった。父の考えも尤もだと思うが、この時点で動かなければもう間に合わないところまで切羽詰まっていたので強硬手段に踏み切ったのだ。
これはあまり知られてはいないが、父はこの世界を創造した神であった。父には私の伯母でもある姉がおり、伯母は地球を創造した神であった。最初に伯母が地球を創造し、それをみた父は新たな世界を創造してみたくなり伯母を真似てこの世界を創造した。伯母は私たちの世界を「異世界」とよんだ。地球とは異なる世界だからということらしい。そして地球でいう「人間」に対し、異世界に住む民たちを「魔物」とよんだ。人間と違い魔物は「酸素」ではなく「魔素」を摂取して生きているからだそうだ。父は創造した世界を叔母が勝手に名をつけても何も言わなかったらしい。父と叔母の力関係が見えてくるが…。
神であった父と伯母はそれぞれの世界で生活を営む人間と魔物をこよなく愛し、人間と魔物がそれぞれの文明を築き上げた時点で、父は「魔物」として伯母は「人間」として永遠の命を捨て寿命あるものにその身を変えた。
伯母は人間の文明に口出しすることなく普通の人として生き、そしてその天寿を全うしてもうこの世にはいない。父も魔物の文明に干渉するつもりはなかったのだが、文明が発展すると比例して魔物同士の争いも増えていき戦争までに発展する様を見て憂い、戦争被害に遭う魔物を救済しているうちに担ぎ上げられ、自分でも思ってもみなかった大小様々な国々をまとめる皇帝として君臨することとなる。
その父を更迭した私は早々に地球への侵攻の準備に取り掛かる。
地球への侵攻にはゲートと呼ばれる異空間を利用したトンネルが必要となる。それを作るためには大量の魔素と複雑な魔術式が必要となる。そのゲートを作れるものは異世界では父と私しかいない。父ならば一日数万の軍隊が通過できる大型のゲートを3日もあれば作り出すことができるが、私は一日三千がやっとの小規模なゲートを作るのに一年はかかってしまう。父から反対されるのが目に見えていたから政変を急いだのだ。
政変以降、私は政を宰相らに任せ、毎日時間のほどんどをゲートの魔術式の組み立てに費やしていた。
そんなある日、宰相からの報告で地球人と思しき人間が前触れもなく突然姿を現したことを聞く。しかもその人間は「日本」からやって来たと念話で語ったという。
「そんなバカな…。異世界から地球へ行くことは可能だが地球からは不可能なはず……。宰相その者と即刻話がしたい。すぐに使いを出しその者を連行するのだ。それから、その者が現れた付近にゲートが出現しているかもしれん、その調査も同時におこなってもらいたい。どちらも大至急だ」
「はっ直ちに!」
宰相はそう答えると足早に退出していった。
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