勇者が日本に攻めてきた!
@soubun
逃亡者
「ハァハァハァ………。」
追われて逃げ込んだ雑居ビル群の狭い路地裏で僕は身を潜め息を整える。
「どうしてこうなった?」
僕はどうやら全国指名手配にされ、日本中の警察官から追われる身となっていた。
「立花大吾…」
全ての発端はこの男からだった。
追われる身となる前の僕は日本の優秀な若者が集まる超難関高校の一年生だった。入学早々、僕は学力学年一位の座を手にする。学力だけで無く身体能力の高さもあり、しだいに多くの生徒たちは僕に畏敬の念を込めた目で見るようになった。
僕の実家は父が一代で築き上げた会社が時代の流れに乗り、あれよあれよと言う間に世界レベルの大企業と成長し、とても裕福だった。僕自身も幼い頃に亡くした母の遺産で莫大な資産を有していた。
僕にはやるべきことがあった。
僕の愛する日本を諸外国の害意から守ることだ。
今の日本は世界でも有数の先進国ではあるが、いわゆる平和ボケで緩み切っていた。その温室育ちの日本人を騙し、陥れ、食い物にしようと考える国々が多数存在しており、その諸外国の一部は連携を組み、手始めに日本の若者をターゲットとし、ドラッグを蔓延させ、外貨を稼ぎつつ日本を堕落させようと画策した。
警戒心の薄い日本の若者たちは、そのドラッグに飛びつき、連携を組んだ諸外国の思惑通り破滅への扉を開こうとしていた。
日本の警察は優秀だが、外交的問題と国際法を駆使した巧妙な手口で、奴等を一網打尽にすることは出来ない。
そんな危うい日本を決して表舞台に立つことなく裏から日本を支え、害意をもって暗躍する諸外国から守る。それは僕の使命でもあった。
そのためには優秀な人材が不可欠。日本の将来を担う若者たちの育成と救済そして良き将来への導きが必要だと考えた。その手始めにと、僕を慕い志を同じくする同級生たちに潤沢な資産を投資し、企業を立ち上げさせた。もちろん諸外国の害意から日本を守るための企業だ。
その企業運営は、将来日本を支える各方面のリーダーになるであろう若者たちによい経験にもなるだろう。この経験がのちに強い日本をつくるための布石になるだろうと考えていた…。
だがその使命は志半ばで絶たれることとなる。
僕の計画をぶち壊したのは、立花大吾という見た目はなんの変哲もない男だった。
僕の計画は外交問題や国際法を相手取ることになるため、非合法な部分も持ち合わせていた。日本を守るためにはやむを得なかったからだ。立花大吾はそこをつき僕の信頼する仲間を裏切りに走らせた。
裏切った仲間に思うところもあるが、親友ともいうべき仲間を裏切りに走らせた立花大吾は絶対に許せない。彼のせいで、日本は破滅の一途を辿ることになるだろう。そのことを理解しているはずなのに、まるで動こうとしない日本政府にも強い憤りを覚える。
仲間の裏切りは、あっと言う間に僕を奈落の底へと突き落とした。僕は追われる身となり、実家からも縁を切られ、僕の資産も凍結させられた。
追われる身となった僕はもう丸3日は食事を口にしていない。公園で飲む水道水だけでどうにかここまで逃げ延びることができたがもう限界であろう。だがまだ解決の糸口が見つかるまで捕まるわけにはいかない。追手の気配が無くなったことを確かめ、力の入らない身体に鞭打ち僕は行動に移す。
「おいっ止まれ!」
表通りに出た瞬間の追手の声に緊張が走る。
道路の向こうに逃走経路に良さそうな脇道を見つけ車道に飛び出す。
気を付けていたはずだった。自分なら道路の向こうまで簡単に渡り切れると思っていた。だが飢餓状態にある僕は思考能力と運動能力が思った以上に低下していた。
目の前に大型トラックが迫る。
「嫌だ!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
脳内に僕の本能の言葉が響き渡る。
トラックとの激突の瞬間、トラックと僕の間の空間に裂け目ができ、周りの光が渦を巻きながらその裂け目に吸い込まれていく。それをみた瞬間、僕も光と共に裂け目に吸い込まれた。
気がつくと、先ほどまでいた場所とは全く違う場所に倒れていた。
「いったいなにが……」
身体を起こし周りを見渡す。そこには日本は疎か世界中でもみたことのないような住宅らしき建物が建ち並ぶ町のど真ん中だったようだ。周りの人たちが遠巻きに僕の様子をうかがっている。
人?…。いや違うどうみても人間ではない。僕の様子をうかがっている者たちは、人の形はしているが顔や手の部分は緑色に覆われ、額にツノのようなものが生えている。体格はかなり小柄で小学校3、4年生ぐらいだろうか。ゴブリン?僕は昔見たファンタジー小説の挿絵で見た魔物を思い出す。
僕は空腹とありえない状況にいることで、その場から動くことができないでいると、しばらくして、周りの者たちをかき分け制服のようなものを着た三体のゴブリンが僕に警戒しながら近づいてくる。
「グキャグキョグギャギャ!」
僕には動物の鳴き声としか思えないが、どうやら僕に話しかけているようだ。特に危害を加えてくる様子もないし、どうにかして僕とコミュニケーションを取ろうとしているようだ。
動けない僕はどうにかしてこのゴブリンたちと会話ができるように、ゴブリンたちの言葉のイントネーションや法則を注意深く聞きながら、身振り手振りで必死に会話を試みていたが、当然全く会話にならない。話も通じず、この先どうなるのかと絶望に落ちかけていると、脳に直接話しかけてくる言葉が聞こえてくる。
「………さき…んども……いるが、お前はどこからやって来た?」
目の前で話しかけてくるゴブリンと全く同じ声色で脳内に日本語が響く。
僕は咄嗟に目の前のゴブリンに向かって返事をするのではなく、脳内に聞こえてくる声に返事をするように言葉を発していた。
「僕は自分の意思とは関係なく突然日本というところからやって来ました。ここは一体どこなのでしょう?」
するとゴブリンは目を丸めて驚くと、こう返して来た。
「お前はこの世界で全く見たことのない種族なのに念話を使えるのか⁉️」
「念話?」
なんのことだかわからずオウム返しに聞き返す。
「まあいい。お前さんの対処は俺たちでは無理だ。上のものに相談するからしばらく勾留させてもらうぞ」
「勾留?僕は捕まってしまうのですか?」
「安心しろお前さんに危害を加えるつもりは無い。それにお前さんこのままで飯はどうするんだ?誰も怖がってお前さんの面倒を見るやつなんかいないぞ?」
「食事ですか……わかりました。ありがとうございます。同行します!」
何はともあれ空腹で死にそうだ。僕は素直に勾留に応じた。
信じられないが、どうみてもここは日本ではなさそうだ。ましてや地球であることすら疑わしい。日本での指名手配がここまでおよび可能性は限りなく低いだろう。食事は何が出されるか不安だが、どうせこのまま何も食べなければ待っているの死だ。ここはひとつ賭けに出てみよう。そう考え僕はゴブリンの後に続いた……。
味はともかく不安だった食事の心配もなく勾留されて5日目のことだった。
「驚くなよ。お前さんはこの世界を治める皇帝から召集がかかった。今から急ぎ帝城へ向かう。夜通し馬車を走らせるから明日の朝には到着するだろう。いいか?くれぐれも粗相のないようにな!」
「皇帝?……なぜ?」
「さあ俺にも理由はわからん。だが急を要するようだ。急ぐぞ!」
「はっはい!」
皇帝と言われ不安しかないのだが、拒否しようものなら今よりもっと酷いことになりそうなので、僕は諦めて皇帝のもとまで連行されることとなるのだった。
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