10.

「これは失礼しました。しかし、失礼を承知で申し上げますと、ただこうして代表を務めるためだけに受態的に行動なさっていたお方が、自らの意思で心から愛したいと思う方ができ、どうにか愛そうと努力なさっているのが驚きを隠せなくてですね」


笑うのを堪えきれないというように微笑むように笑う松下が言ったことに、傍からはそう見られていたのかと驚いた。


確かに、当たり前にこの会社を継ぐためだけに幼い頃から勉強をしてきて、その他の感情も人間関係も切り捨ててきた。

だから、元婚姻関係だった雅ともただの跡継ぎを産むためだけとも、雅の家との繋がりがあれば会社のためになると、そういう関係としか思っていなかった。

しかし、姫宮と出会ったことでその機械的に歩んでいたことが崩された。

アルファ同士でなかなか世継ぎが産めなかったおかげと、今は思ってしまう。


それがあったことで、ピリピリとしていた空気も業務的に会話や表情していたこともなくなり、今までに感じたこともない感情が動かされた。


松下が言う受態的な行動も、あの女が吐き捨てるように言った、堅物のような自分が一人の人間に会ったことで、いとも簡単に変わるのだから、自分にそんな感情があったのかと驚いたものだ。

とはいえ、そういったことを培ってこず、自ら言った姫宮を愛すことをなかなか実行できずに日々を過ごしていたところに、松下がこう言ったのだ。


『クリスマスが近いですし、姫宮様と大河様に何かプレゼントをされてはいかがでしょう』


いい提案だと思ったのも束の間、どういうことだと疑問を口にした。

というもの、御月堂はクリスマスというのはどういうものか知らないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る