8.
再び目を開けると、部屋が薄明るくなっていた。
朝になったのかと思いつつ、次に頭にあの不器用な手つきの温もりが感じられないことに気づいた。
寝るまで、と言っていた。だから、姫宮が寝た後すぐに出て行ってしまったのだろう。
しょうがないことだ。けれど、寂しい。
彼がいた方を見、それから起き上がろうと手をついた時だ。
暖かい。
何故なのかと思ったのも一瞬で、ここにいたから温もりを感じたのだと思った。
「⋯⋯慶様」
彼がいたその温もりに触れる。
「⋯⋯?」
そうしていた時、視界の端に何かがあることに気づいた。
その方向を見ると、手のひらよりも少し大きいクリスマス柄の包装紙に包まれた箱が置かれていた。
結んである赤いリボンに挟んであったカードを見てみるとこう書かれていた。
『愛賀へ』
ということは自分宛てのプレゼントということなのだろうが、一体どうして。
起き上がった姫宮はその箱をそっと持ち上げ、リボンを解き、包みを丁寧に剥がし、それから包まれていた箱を開けた。
「⋯⋯スノー⋯⋯ドーム⋯⋯?」
聞き慣れない言葉を言うように呟いた。
軽く揺すると雪を模した白い粉が水の中で舞った。
大きさといいドームの中にあるクリスマスツリーといい可愛らしい代物だ。
今の季節らしい贈り物であるが、何故自分に。
──喜ばせたいのは大河だけではない。
左右に揺すったり、逆さまにして舞う雪を見つめていると、昨夜の御月堂の言葉が不意に頭に浮かぶ。
「慶様は私のために⋯⋯?」
安野が大切な人に贈り物を贈ると言っていた。大河がそうだったように、御月堂もまた姫宮のことをそう思っていて、スノードームを贈ってくれた。
はっきりと恋人関係とは言わなかったこともあって、御月堂との関係に不安を覚えたことがあった。
熱が出たことが心配だと言っていたが、プレゼントを渡しに行くためもあったかもしれない。
そう思うと、自惚れてしまう。
「⋯⋯ありがとうございます、慶様」
熱のせいもあるかもしれない。それでもふわふわとした気持ちに包まれながら、夢中になって大切な贈り物を時折揺すっては見つめ続けるのであった。
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