朝のショートホームルーム

遅刻5分前に教室に着いたので、間に合ったようだ。


「よお、おはよー」


「おはよう、走ってきたのかい?」


「あぁ、少し筋トレのしすぎでな。危なかったぜ」


この二人は中学からの友人であり、二人とも契約者になるため日頃から勉学と身体を鍛えてる志の高い男たちだ。


ちなみに、席が二人共俺の前なので近いのでよく話す。


「毎日オーバーワークってくらい頑張ってるだろ?偶には休憩する日も作れよな」


そう言うのは剛である。


武田剛で豪快な男である。


外見はオールバックに筋肉隆々のマッチョマンだ。


言葉遣いは悪いが気配りの出来る男だからか女子たちの人気が高い。


これが不良イケメンってやつか・・・。


「それに、この前の小テストの結果悪かったよね?過度なトレーニングだけでなく、勉強も大切にしようね」


そう言うのは将暉である。


矢沢将暉で礼儀正しく真面目な男である。


外見は典型的な美少年といった顔立ちの細マッチョマンだ。


もちろん、クラス一のイケメンであり、学年トップの人気を誇る。


正統派イケメンだから強いぜ・・・。


ちなみに、俺の名前は赤石錬である。身長と身体能力が高いことが取り柄の男だ。


「あ、あぁ・・・分かったよ」 


毎日のトレーニングと夜のお仕事のせいで、俺の睡眠時間は少ないから授業中に居眠りするのは仕方ない・・・よな。


「授業中に寝るのは良くねーよなぁ。お前が契約者になるための資質がないって言ってもよお、大学とかには最低行くんだろうから、ある程度は出来ないとなぁ」


剛の見た目は不良だが、勉強は将暉に一歩及ないだけで、かなり出来るのだ。


「そうそう」


剛の発言に同意する将暉は、逆に身体能力で剛に一歩及はずといったライバル関係なのだ。 


契約者になるために2人とも高いレベルでの学力を身に着けるために日々勉強している。


「俺もお前らみたいに契約者の資質があれば、もう少し色々頑張れたのかもなぁ~」


契約者の資質を持つ者はそれなりの数いるのだが国から毎年契約者になれる人数に制限をかけられている。


世間では、ウイルスの数が足りていないとか、治安維持のためだとか色々な噂が流れている。


「居眠りはダメだぞ〜錬君、契約者になるためじゃなくても勉強は大切だよ。それに、勉強が出来る男子はカッコいいぞ〜!」


そう言うのは沙羅である。


黒田沙羅で外見は黒髪ロングで両側に赤いリボンをつけている。


モデル活動してるだけあり、身長が男子と同じくらいに高く、スタイルも大変いいのでクラスで1番人気どころか学校一の美少女さんだ。


性格は底抜けに明るく、男女問わず好かれる性格をしている。


成績優秀だから時々勉強を教えて頂いている俺の恩人様なのだ。


「そうだな・・・。なるべく今日は寝ずに頑張るよ。だがな、ローマは一日にして成らずと言うが、俺の筋肉もそうだ。動かすなら頭より身体だろ、違うか?」


「全く違うぞ」 


「筋トレばかりに力を入れるのは愚の骨頂だね」


友人二人からは不評のようだった・・・。


「でもでも確かにこの筋肉凄いなぁ~。こんなカチカチだもん!毎日、頑張ってて偉いね!」


隣の席だからと脇腹や腕回りをツンツンと指で突くのは止めて頂きたい。


クラスの男子たちからの嫉妬の視線で、俺の心が痛いんだ・・・。


「黒田はモデルやりながらなのに、文武両道だよな」


「うん、この前のテストも学年一位だったしね」


剛と将暉が、沙羅を褒める。


実は、この二人沙羅に好意を寄せている・・・多分。


直接聞いたわけではないが、雰囲気でなんとなく分かる。


俺は空気の読める男なので友人の恋路を邪魔するわけにはいかない・・・。


だから、密かに持ってきているハンドグリップで筋トレするのも仕方ないよね。


「なんだか、照れくさいなぁ・・・。私も契約者になるために日頃から頑張ってるからね!二人とも私のライバルたから、負けてられないよ!」


沙羅は胸の前で両拳を握り頑張ってますアピールをしている。


その後も担任が教室に来るまで、三人は話しているのだった・・・。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


俺の学校は少し特殊で契約者になる人間の排出を目標のため、他の学校より理系科目も多いし体育の授業も厳しいのだ・・・近いから通ってるが辛いぜ。


俺みたいな契約者の資質がない人間も多く在籍しているから肩身狭くないのが救いだな。


ウイルスにより契約者達が表れ少し時が経つと、世界中各地に能力を悪用した事件が多く発生した。


日本も同様の事件が多発したことを受けて、様々な制度が変革した。


学校のカリキュラムもその一つである。


大きく変わったのが2つあった。


1つ目が、昔の高校にあった理系・文系というシステムが無くなり、理系教科を重点的に教育するというものだ。


契約者の能力というのは、人間の生命エネルギーで現実の事象へと改変するものと言われている。


つまり、現実の科学現象等のイメージが出来ているかそうでないかで大きく違うのだ。

契約者にならない多くの人間も自己防衛対策として学ぶ必要があるというのが理由らしい。


俺は文系科目の方が好きだから、昔の学校が少し羨ましい・・・。


2つ目が、体育の授業である。


以前はサッカーやバスケ等のスポーツをしていたらしいが、現在では陸上と格闘技・武道中心になってしまった。


契約者が増えた影響の治安悪化を受けて、自己防衛のための基礎体力・防衛術を学ぶためだとか・・・俺はスポーツ観戦好きだから野球とかやってみたかった。


部活動でのみスポーツ活動出来るので、俺はスポーツをしたことが全く無いのだ。


体育は国の契約者になるための身体検査の高い基準をクリアするために多くの学生達が特に力を入れている授業だ。


「みんな、おはよう!」


担任が教室に入りクラスの皆に挨拶をする。


「「おはようございます!」」


クラスの生徒から大きな声で返事をする・・・元気がいいね。


そして、生徒から尊敬と畏怖の眼差しを向けられているのが、担任である体育教師の岡島だ。


岡島は珍しく契約者なのに学校で教師をしている。


国から認められている契約者なら、もう少し高賃金な仕事も多くあるだろうに・・・。


多くの生徒からは、教育熱心のいい先生と見られているようだった。


俺は全く信用もしてないし怪しさ満載と思っているが・・・。


そんな岡島は定例業務の説明を生徒たちに話し、最後に昨夜のニュースについて触れた。


「今朝のニュースを見た者も多いと思うが・・・契約者によるショッピングモールでのテロがあり、一般人と警察官達含めて複数人が犠牲になった。皆は契約者と遭遇しても戦わず逃げることを第一にして欲しい・・・以上」


岡島は戦うことなく逃げる事の重要性を指摘して、教室を出て行った。


俺も基本的に契約者に遭遇したら逃げるのが鉄則だと思うし実際に国からもそう指示されているのだ。


朝のショートホームルームは、少し暗い雰囲気で終わった。


俺は話半分で聞きながらハンドグリップを握りしめて筋トレしてるのだった・・・。

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