第24話 心燃える魔術人形VS心無いアンドロイド(後編)

【速報】中央政府長久手ダンジョンの配信を隠す【陰謀論者アップを始めました】


 ・名無しの探索者

 ヤバいね。流石にこのタイミングでの通信障害はおかしいやろ。

 

 ・名無しの探索者

 消える直前出てきたやつ、アンドロイドだったよな?

 話し方がおかしかったもんな


 ・名無しの探索者

 トランティ絡みかもしれんよ

 ついにYOUTUNAGにも影響する程になったのに

 YOUTUNAGだけは俺ら日本人の味方だと思ったのに


 ・名無しの探索者

 駆死んだな


 ・名無しの探索者

 結果で語る奴だったから好きだったのに

 Sランクの力は絶対あるやつだったしな


 ・名無しの探索者

 いやいやいや身の程弁えてなさすぎだろw

 新発見のダンジョンにたった一人で下るとかw


 ・名無しの探索者

 駆グッバイ、安らかに眠れ


 ・名無しの探索者

 あれ? 配信再開した?


 ・名無しの探索者

 なんだあのアンドロイド!?

 見たことないぞ


 ・名無しの探索者

 特撮か!?


 ・名無しの探索者

 なんかあんな感じのロボットアニメ見たことある!!


 ・名無しの探索者

 ビーム放ってるし!?


 ・名無しの探索者

 おかしいだろ威力!!?!?


 ・名無しの探索者

 ケルベロス並み!?


 ・名無しの探索者

 いや待てケルベロス並みとかつまり十終神とわりがみ並言われても


 ・名無しの探索者

 また愛知危機かよ……

 試される大地愛知


 ・名無しの探索者

 駆ボロボロになってるし


 ・名無しの探索者

 駆生きてんの?


 ・名無しの探索者

 見た感じ生きてはいそう。血流してるの見えるけど


 ・名無しの探索者

 コギト!!


 ・名無しの探索者

 コギトおらん!?

 

 ・名無しの探索者

 普通にアンドロイド圧倒してんじゃねえか


 ・名無しの探索者

 なんだよあの炎

 

 ・名無しの探索者

 コギトの真ん中が燃えてる!?

 あれも魔術か?


 ・名無しの探索者

 かっこいい



 ――以上のスレッドも、片手間で新は確認していた。

 配信の再開は新も意図していなかったことだった。だが最早隠蔽などどうでもよいと思える程、コギトが得たスキル【心灯ハートエイク】に魅入られていた。

 コギトの真の力がどこまで行くか、一番の特等席で凝視しておきたかったからだ。



 ◆◇◆◇



 破壊音。

 またエルゴのパーツが弾け飛ぶ。

 人形は、アンドロイドを圧倒していた。


 桜吹雪のように舞う装甲や回路の一つ一つが、コギトの理解を超えた物質で出来ている。きっと魔術人形キッズのままだったら壊すことは出来なかっただろう。

 命令で動く、魔術人形キッズのままだったなら――。


「ベストパターンを逸脱している……再度コギトをラーニング、ベストパターンを再構築」


 飛び散った脚を修復しつつ、コギトの前へ先回りする。

 何度もコギトの攻撃態勢や防御行動を見て、観て、診て、その超絶的な演算能力を以て未来予知を実現している。今回も確かにベストパターンだった筈だ。


「押し切ります!!」


 しかし人工知能の予測は、現実にならない。

 衝突の直後、片腕を捥がれながら吹き飛んでいたのはエルゴの方だった。

 予測からも、ベストパターンからも超越して、さらにもう一歩踏み込まれた。


「再度コギトをラーニング、ベストパターンを再構築……」

「押し切ります!!」


 再び衝突。荷電粒子レーザーまで交えた多段攻撃でコギトを無力化した筈だった。

 しかし未来の光線よりも熱い心灯ハートエイクを宿したコギトに、またしても斬り飛ばされた。


「理解不能、何故……」


 スペックならパワードスーツを兵器回帰リターンしたエルゴの方が勝っている筈だ。

 パワーもスピードも武装も、何もかもがエルゴの方が上だ。

 しかもラーニングでコギトの動きは予測出来ている。


 にも関わらず、劣勢を覆せない。

 未来の人工知能が、異世界の人形に勝てない。


「あなたが知らないからです」


 心灯ハートエイクを燃やしたまま、コギトが力強く答える。


「心は、非常に強いからです!」

「貴様は間違っている。心の強弱は戦闘に関係ない」


 直後、コギトの前方に魔法陣が幾つも浮かび上がる。


 蠍の超新星フルルビー

 双子の彗星ツイントパーズ

 白鳥の星雲プリオシンサファイヤ

 鷺の星風バードエメラルド

 北の一番星オレンジダイヤモンド


 停車場の如く、コギトとエルゴの間に一定の間隔で強大なエネルギーが奔流している事が検出された。魔術、それは未来の人工知能を以てしても解析しきれない概念である。


 だが大技故に当然隙が出来る。やはり合理的選択を取ることにかけては人工知能の上を行くものは無い。発動よりも先んじて、エルゴが最大出力のレーザーマグナムを発射することが出来る。


「ベストパターン再構築、これでコギトが消滅する確率は限りなく高――」


 演算終了間際、ノイズが胴体部分から走った。

 横に人影。すべての演算をコギトに費やしていた為に反応が遅れた。

 だがそれ自体も合理的なリソース配分だった。何故ならコギト以外にここで戦闘が出来る存在などいなかったからだ。新はホログラム、駆は重傷だ。二人を計算に入れる必要性など皆無に等しい。


「予測に反している。何故橋尾駆が動いているのか」

「黙れアンドロイド。俺は弱いまま立ち止まる訳にはいかないんだ……」


 そのはずだったのに。

 動けない筈の駆が、胴体部分を横から突き刺していた。


「理解不能。これも心の力だというのか」

「そうです。あなたは分かっていません」


 ここにも心に火が灯った戦士が一人。

 心灯ハートエイクの炎が一層大きくなり、翼のように広がった。

 言葉の外側にある魂で、「ここにいる」と叫んでいた。


 そしてコギトは、駆ける。


 蠍の超新星フルルビー

 双子の彗星ツイントパーズ

 白鳥の星雲プリオシンサファイヤ

 鷺の星風バードエメラルド

 北の一番星オレンジダイヤモンド


 すべてを通過して、銀河を映したライナーブレードを最上段から斬りつける。


「【天上送りハレルヤクロス】を発動します」

「……ベストパターン、なし。本端末の破壊は免れ――」


 アンドロイドの最後の予測は当たった。

 暴走したエネルギーによって爆炎に巻き込まれるまで、両断された二つのカメラでコギトの後ろ姿をラーニングしていた。

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