心壊れた魔術人形のダンジョン配信~かつて全てを滅ぼしてしまった異世界の最終兵器ですが、降り立った現代でバズったせいか皆から愛されてます~
第16話 魔術人形、日本名と戸籍と冒険者ライセンスと学生証を得る
第16話 魔術人形、日本名と戸籍と冒険者ライセンスと学生証を得る
政府直属特務
少なくとも結が絶句するほどには影の存在では無かった。
「影勇者って……あの政府に認められた冒険者しか成れないっていう」
「ああ。エレナもその一人だ」
曰く政府直属特務
最早そこに冒険はない。あるのは国を守るための忠誠心のみ。
「現在日本は未曽有の危機に見舞われている。
新が手を掲げると、その部分がアンドロイドの無機質なものへと戻った。
アンドロイドそのものを示すように。
「時代の変化もある。Sランク冒険者による個の力が戦局を左右する時代は終わった。人工知能は本格的に軍事投入され、ダンジョン攻略が可能なレベルに達している。冒険者がアンドロイドに取って代わるパラダイムシフトもそう遠い未来では無い」
新から光が照射された。壁に映し出されたシアターには、アンドロイドがミノタウロスを倒す試験運転の映像が映し出されていた。
「
「ごめんなさい。その要求はできません」
即答で却下した。
スケールの大きな話に呆気に取られていた結も、影勇者の一人であるエレナも驚いた様子でコギトを見つめる。
「
「東京の一等地を自動車で走り抜けるのも楽しいぞ。余暇も十分設ける。公務員だから安定の高収入がある。ホワイトな職場だぞ?」
「
試すように目を細める新の態度に対し、きっぱりと断って見せるコギト。その理由に入った結も思わず「いいの?」と目を丸くしていた。
「
「んんん、照れるな。まさか政府の誘いまで断ってくれるなんて。勿論、次どこ行くかは考えてあるよ」
にっ、と結が満面の笑みを浮かべる。
「くくくく……はっはっはっは!! いいねいいね、青春だよ青春だよ!!」
だがそれ以上に手を叩いて高笑いする男がいた。フラれた筈の新だった。
「何故笑っているのですか。あなたの期待を裏切った行為のはずです」
「いや、むしろ断ってくれてありがたい」
「何故ですか?」
「SNSをご覧よ。政府はコギトを囲い込むとか、兵器にするとか言いたい放題。陰謀論までキメてる奴らもいる。これで君が
断られた側の人間にしては、あまりにもあっけらかんとしていた。
結だけでなく、コギトも口を開きっぱなしになってしまった。
「ならば何故
「後で総理達に弁明するためのアリバイ」
「しかし日本は未曽有の時期に立っていると言っていました」
「それを何とかするのが中央政府の仕事。国民に頼るのは本当の最終手段だよ」
ようやくコギトは気付いた。最初からコギトを無理矢理
「冒険がしたいか。青春がしたいか。ならば君が十全に楽しめるよう、中央政府は君を全面的にサポートしよう」
「サポート?」
新がエレナの方に目をやると、エレナが3つの紙を並べてきた。
「Listen, Cogito. 君から見て左から、戸籍登録届、Sランク冒険者登録票、そして菊理さんもお馴染み
「戸籍登録届は必ず受理するよう裁判所にも手を回してある。Sランク冒険者登録票はこのダンジョン庁長官の推薦があるから問題ない。高校も仮に0点でも合格するように……って勉強はしとけよ」
Sランク冒険者登録票。これでコギトは正式に冒険者になれる。
だが何より、胸を熱くさせたものがあった。
握っていたのは戸籍登録届だ。
「あ、あ……」
「コギト?」
「ごめんなさい。コギトは楽しいです」
コギトはまた泣いてしまった。
昨日結と命を分かち合えた感動と同じ何かが、コギトに涙を齎していた。
「
「楽しいじゃないな。きっと嬉しいという感情だと思うけどね」
「これが嬉しいなのですね。
次第に涙を払拭するくらいに笑うことが出来た。結もエレナも、そして新でさえも天真爛漫に笑む天使に一瞬心を奪われていたのだが、流石にコギトは知る由もない。
たとえ書類上の話だと弁えていても、
「ならば名前も決めなければな」
「名前ですか? 本個体はコギトです」
「違う違うそうじゃない。日本では姓と名で表すのがルールでね。ま、カタカナ表記でもいいんだが、折角だから漢字の名はどうだろう?」
と言われたものの、漢字の認識率は完全ではない。悩んでいると「そうだ!」と結が声を上げてペンと紙を取り出す。
「実はね、前から考えたんだよ。もし日本での名前が必要になった時の漢字を」
【
力強く、綺麗な字でそう書かれていた。
「小さいけれど、それでも樹のように強い人。なんてどうかな?」
「はい。なんだかとても嬉しいです!!
「また即答!? もう少し考えた方がいいんじゃ……」
「ありがとうございます、結!」
「ちょっと、人前で、しかもダンジョン庁長官の、エレナさんの前――っ!」
昨日抱き着かれた仕返しとばかりに、結に抱き着いた。何故か結は顔を真っ赤にして「待て待て頼む、色々心の準備ができとらん、君がいいならいい」と呟くだけだった。少し悪影響を与えてしまったような気もしたが、一目惚れした【小樹人】の名に感動するので精一杯だった。
苗字は日本で一番使われている【佐藤】にした。その方がもっと人間に近づける気がしたからだ。
「ちっくしょうエレナ。俺らもハグしておくか」
「Oh My God. セクハラよ。アンドロイドおじさんの肉体は眼中にありません」
「はぁ……まあ佐藤小樹人君。我らとしては君をもう少し知っておきたい。君の身体は
不具合と言わず、病気と言ってくれた。これも新の配慮だったのだが、人間扱いされたことが嬉しくて少し口角が上がる。
「政府専門の分析組織を連れてきた。あとで検査を受けてほしい。無論、何かを君の身体に仕込んだりとか、閉じ込めることなどしないから安心してくれ」
「はい。新、あなたはとても信頼できます」
「……そして事情を知る人間が近くにいた方がいいだろ? て事で、君がこれから行く天伯高校にエレナが教師として赴任する」
「えっ!?」
思いがけないと言わんばかりの結。一方コギトはまだエレナを測りかねていた。
運転していた時から人間味を感じなかった。人間なのに喜怒哀楽が薄い。確かに百戦錬磨の魔族を相手にするほど、この手の存在は見てきたのだが。
でも新の仲間であり、また結の憧れの人ならばきっと信頼できるだろう、とコギトは頷いた。
「んじゃ、佐藤小樹人君。存分に冒険者生活並びに高校生活を楽しんでくれ。ダンジョン塗れの日本へようこそ。この国は君を歓迎しよう」
「はい。ありがとうございます。新」
コギトは頭を下げた。たくさんの楽しいを提供してくれた新にも、いつか恩返ししたいと誓いながら。
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