第15話 魔術人形、ダンジョン庁長官(アンドロイド)と会う
朝、小田エレナというダンジョン庁所属の役人が来た。金髪碧眼の彼女はアメリカ人とのハーフと呼ばれる存在らしい。スーツにまとわれた女体は細くとも無駄なく鍛えられているのもあるが、彼女の能力は非常に高いと判断した一番の理由は別にある。
「自動車とはハンドルやボタンがとても多く、操作が非常に難しいと判断します。しかしエレナはこれを難なく操作しています。よってあなたの能力は非常に高いと推測します」
要は車が運転できるエレナはすごい。
と
隣で自分事のようにウンウンと結が頷く。
「そりゃエレナさんはレジェンド級のすごい冒険者だもん。車の一台や二台、所有していてもおかしくないよ」
結は地位的なエレナの「すごい」を示しており、コギトのいう「すごい」とは食い違っている訳だが、二人とも見事に気付いていなかった。
ミラー越しにコギトとエレナの目が合う。
「
「肯定します」
「But, 教習所というところに行けば、誰でも車が運転できるようになるわ」
日本語じゃない発音があるが、何故かその意味は理解できる。
一方結はエレナにたじたじで、終始借りてきた猫のように萎縮していた。
「Oh, 菊理さん。私は既に冒険者をやめた身。何も偉くないから
「いや私たち世代のアイドルですよ。最年少の18歳でSランク冒険者になった超新星でしたもん。女子はみんなエレナさんに憧れてました」
「Thank you. 冒険者やってて良かったと思えるわ」
「エレナは現在は冒険者ではないのですか?」
「That's right. 3年前に冒険者ライセンスを返納してね」
まるで自分の事のように結が残念がる。
「それも驚きでした。21歳で現役引退なんて早すぎて」
「No problem. 今は中央政府のダンジョン庁で現役よ。だから二人を迎えに来たって訳」
どうやらダンジョン庁の重要な役人が、コギトに話があるらしい。その為に派遣されたのがエレナのようだ。
「
「ダンジョン庁長官、
その名を聞いた瞬間、憧れていた結の顔が一転した。何か思い悩むような顔つきでエレナに尋ねる。
「前から気になってたんですけど、今のダンジョン庁長官って……アンドロイドなんですか?」
◇◆◇◆
コギトがこの世界に来て最も驚かされたのは、魔力や魔法陣も無しで自律起動する機械人形――アンドロイドだ。
役所を見渡すと窓口にアンドロイドが何体かいる。外見上は人間と変わらないが、検知情報は明らかに人間とは違う値を示している。
彼らも自分と同じ、地球にとっての
その事実にどこか複雑な気分になりながらも、ダンジョン庁長官が待っているという応接室に入ったら、アンドロイドが座っていた。
外のアンドロイドとは違い、人間に擬態していない。無機質な外見をしたまま機能を停止している。
「結が質問した通り、
その時、キィィンとアンドロイドから起動音が鳴り始めた。
「アンドロイドから妙な反応を認識しました」
「Don't worry. アクセスしているだけよ。クラウド上に存在する
「クラウド上?」
「つまり現在データ世界にあるのよ。彼の脳は」
アンドロイドの目に光が宿り、体を起こす。
途端アンドロイドの身体が男性のものに置き換わった。外のアンドロイドとは違って人間の値しか検出できないことに驚いた。間違いなくさっきまではアンドロイドだった筈なのに。
スーツを着こなしたパーマヘアの男性(に模している筈のアンドロイド)は、楽しそうに語りかけてくるのだった。
「済まない。通信状況が悪くアクセスに時間かかってしまった」
「あなたがダンジョン庁の長官、
「いかにも、俺が
絶句したコギトと結を気遣ったのか、
「驚かせたようだね。色々事情があって脳をデジタル化したんだ。だから物理世界に干渉するには専用のアンドロイドを介さなければならない」
脳をデジタル化。
「ならばあなたは
「ああ。このアンドロイドはいわば端末。ちなみに別の端末は東京でちょうど記者会見をやってるよ」
新の手から発光され、シアターが壁に映し出された。
『長久手ダンジョンにおけるケルベロス脱走と討伐について』と銘打たれた映像には、記者たちからの質問に対し明瞭な回答を返す新が映っていた。
正確には、新の
シアターを解除すると、新がコギトと結に向き合った。
「まずはケルベロスの件、政府を代表して感謝を述べたい。公式な表彰や褒賞は別途執り行わせてもらうが、まずは直接礼をさせてくれ……君たちのおかげでこの日本は救われた」
「いや、私は何もしてないですけど……」
「君たちは結ちゃんねるとして行動していた。それなら君にも感謝を示すのが筋というものだ菊理結さん」
ダンジョン庁のトップが頭を下げる。それはとても重大な事らしく、思わず隣で結も頭を下げていた。コギトからすれば相手がトップでも庶民でも『ただ結を守ろうとしただけ』という感想しか出ないのだが、ひとまず結に倣って頭を下げた。
「また、豊田第1ダンジョンでは大変申し訳ない事をした。ワープトラップがあったとは……我々ダンジョン庁の管理不足だ」
「
「ああ。やはり君は異世界から来たのか」
あっさりと異世界から来たことを新は信じ、前のめりになる。
「異世界というのはどんな所だ? 教えてくれ。例えばキッズとは何だ?」
「
それから談笑が続いた。緊張ばかりだった結もほぐれてきたのかいつもの調子で笑っては、時に同情してくれていた。コギトの異世界での暮らしや
気付けば1時間も経過していた。時間を忘れるくらいに楽しかった。
「――そうか。しかし魔力や魔術……俺もかつては科学者だったが、まさかそんな法則が存在するとは思わなんだ。ダンジョンや魔物を研究する論文でも全く出てこなかった内容だ。ケルベロスを倒したその力を見込んで、どうかお願いしたいことがある」
すっかり油断したところに、本命が叩き込まれた。
「君には政府直属特務
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