第7話 魔術人形、視聴者に挨拶する

【アンドロイド?】豊田第1にコギトとか言う超新星現るwwww

 

 ・無名の探索者

 豊田第1の動画ってマジ?


 ・無名の探索者

 シルバーウルフが一瞬で首刈られてて笑うwフェイクだろこれ

 

 ・無名の探索者

 魔法陣……? リアルなのこれ?


 ・無名の探索者

 ミノタウロスを爆発系のスキルで滅殺してる件


 ・無名の探索者

 ってかなんでミノタウロスの素手で受け止められんだよ

 

 ・無名の探索者

 なんだよあの炎系のスキル。本人は魔術とか厨二してるけどさ。

 下手すりゃ街消せるぞ。


 ・無名の探索者 

 ってかスキルじゃないだろ

 少なくとも「変身メタモルフォーゼ」「ワープ」「爆発」

 これ三つとも実現できるスキルねえだろ

 1人1個。この法則が破られてること自体がおかしい


 ・無名の探索者

 そもそもメタモルフォーゼってSランクの真秀まほしか使えねえユニークスキルだろ?

 

 ・無名の探索者

 あれはメタモルフォーゼじゃねえって言ってんだろ、変形とは別物だ。



 ・無名の探索者

 人間じゃなくてキッズとか言ってたな。

 子供なのは見りゃ分かるけど。

 

 ・無名の探索者

 動画見てきたけどヤバかった……

 バケモノじゃねえか

  

 ・無名の探索者

 コギト、アンドロイド説マジ?


 ・無名の探索者

 やっぱアンドロイドじゃねえの?

 マルチスキル搭載アンドロイドが開発中なんだろ?


 ・無名の探索者

 まだシングルスキルでも全然無理だろ


 ・無名の探索者

 冒険者もAIに奪われる時代か……。

 

 ・無名の探索者

 って言われてから15年だけどな。


 ・無名の探索者

 まあダンジョン外での戦力はアンドロイドに置き換わり始めてるし

 

 ・無名の探索者

 なあ。

 コギトって十終神とわりがみじゃねえの?

 

 ・無名の探索者

 今度こそ世界終わりじゃねえか

 マジで5年前の再来なの?

 

 ・無名の探索者

 おい待てやめろまだアンドロイドとか中央政府の暗躍とかの方が可愛いぞ

 

 ・無名の探索者

 陰謀論ワロタ。何でもかんでも十終神とわりがみに結び付ける奴いるよな


 ・無名の探索者

 少なくとも人間の動きじゃねえよ。

 斬る時の動きに無駄が無さすぎる。マジでロボットだろ。

 

 ・無名の探索者

 ってか結ちゃんは? 生きてるの?

 ワープトラップは運が悪かったね。

 

 ・無名の探索者

 さっき生存コメントがYOUTUNAGに書かれてたぞ。

 

 ・無名の探索者

 棚ぼたでチャンネル数増えてて草。

 

 ・無名の探索者

 いや、カワイソスだろ。

 完全に「お前は知り過ぎた」だろ。

 中央政府の公安に消されてんじゃね?

 でコギトは回収、と。

 

 ・無名の探索者

 まだJKになりたてなのにな……

 貴重な未成年が……

 

 ・無名の探索者

 正直結ちゃんは可愛い。


 ・無名の探索者

 結ちゃんねるの生存報告配信キタ

 

 ・無名の探索者

 死ぬほどの目にあったのに元気だな。

 それくらいのメンタルじゃないと冒険者はやってけないか。


 ・無名の探索者

 おいコギトもいるぞ

 

 ・無名の探索者

 結局中央政府何も関与してないの!?


◇◆◇◆


「皆さま、いっぱい心配をおかけしました。見ての通り結、無事に帰還済みです」


〔結ちゃああああん!!〕

〔ほんとよかった、おつかれ!!〕


 コギトは後ろで、結が配信画面が映るパソコンにしたお辞儀を見ていた。

 どうもこの日本では、頭を下げることが挨拶の基本らしい。


 一方で結の顔に覚めやらぬ興奮が滲んできていることが分かった。『バズった』という状態になってからずっと、こうだ。

 きっと『バズる』ことは結にとって有益なことなんだ。そうコギトは学習した。


〔コギト君いるし!!〕

〔コギト!〕

 

 パソコンの画面にコギトの名前が流れてきた。

 それ以前から物憂げに目線を逸らすコギトが映っていた。


〔コギトってアンドロイド!?〕


「コギトはアンドロイドではありません。魔術人形キッズです」

 

〔だからキッズって何ぞ!?〕

〔やっぱダンジョン攻略用の兵器なのか?〕

〔明日になったら中央政府の命令で結ちゃんごと愛知消し飛ぶんじゃね? コギトの力で〕


「……」


 兵器なんて言葉や、一つの街を吹き飛ばして当然とでもいうようなコメント見て、目を落とす。

 まだ人間が怖い。パソコン越しの人間相手にどうしたらいいのかなんて想定してコギトは創られていない。

 

「大丈夫だよ」


 と小さな声。


 氷塊に沈みそうな思考が、ふいに救い上げられた。

 隣を見ると、結が腕を掴んでくれていた。

 湯たんぽのような温かさと、優しさだった。


「という事で重大報告です! これから結ちゃんねるはコギトと私、二人でやっていきます!」


〔うえええええ!?〕

〔ま さ か の 展 開〕

〔Sランクの強さあると思う……〕

〔大丈夫か!? 中央政府の機密事項だぞ!? 消されるぞ!?〕

〔トレンドに上がってるし、絶対政府が見てるぞ!〕


「その時は……どんと来いです!」


 結という少女にコギトは目を奪われる。戦力は人並みなのに、どうしてこんなに力強さを感じるのだろう。隣にいるだけで原動力が漲ってくる。

 

「ほら、コギトも挨拶して」


 結の期待に応えたい。

 だから魔術人形キッズは慣れない挨拶をする。

 

「本個体はコギトです。初めまして。結ちゃんねるにて、動画配信を一緒に実施し、バズります。よろしくお願いいたします」

「うーん、緊張してるね。私も最初は噛み噛みで酷かったですもんねぇ」


 とフォローを入れる結。

 隣の自分は、ずっと迷った目をしていた。

 

〔wwwww〕

〔バズりますって正直すぎんかw〕

〔いや普通に可愛いやん〕

〔かわいいいい〕

〔あれ? 男だよな? 普通に女でも良いような気がする〕


 兵器だった頃には浴びなかった言葉だらけだった。

 だけどその言葉を見ていたら、先程まで抱いていた不具合が幾分か消えていた。


〔人間だとしたら、コギトは12、3歳くらい?〕

〔なんか身長同じなのに結ちゃんが姉みたい〕


 ぴく、と結の目蓋が動く。

 そういえば部屋に10歳ぐらいの結の写真が飾ってある。

 両脇に父母らしき男女がいて、結の隣には8歳くらいの男の子が写っていた。

 

 結にも家族は居たのだろうか。

 だとしたらその家族は今、どこにいるのだろうか。

 何故かそれを聞くことは、コギトにはできなかった。


◇◆◇◆


 結は流石に疲れがあったのか、配信の直後に直ぐに寝てしまった。

 一方、コギトは睡眠を必要としない。魔術人形キッズは夢を見ない。代わりに人間が安心して夢を見る為、夜襲ってくる魔族から護衛する設計になっている。

 この世界には最初から魔族はいないけれど、悪意ある人間ならばいる。

 布団で涎を垂らしながら気持ちよさそうに寝る結は、絶対に守る。


 更にその片手間で、コギトは並行で別の事を行っていた。

 予めパスワードを教えてもらったドローン用のスマホを開く。

 ……魔術人形キッズはスマホの扱い方をもうマスターしていた。


 そしてYOUTUNAGからランキング1位の動画を開くのだった。


「これよりコギトは【バズる為の方法】の学習を開始します」


 異世界転移して初めての夜、コギトは1億回以上再生されているダンジョン配信動画を何十も見る。そして傾向を分析し、どうすればバズるかを研究し尽くした。

 すべては、結に褒めてもらうために。


 

 そして翌日、宣言通り朝から冒険に向かうのだった。

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