第2話 魔術人形、手を繋いだ先の世界へ満ちてゆく。
仮にこれがコギトが人間だったとしたら、あんまりだと泣きわめくだろう。アイスへ飛び掛かるだろう。絶望で髪を掻き毟るだろう。
しかし
「魔王は死んだ。平和になった世界に、貴様のような暴走兵器は不要だ。新型も出来たしな」
ぞろぞろと、前倣えで歩いてくる集団。新型の
どうやら彼らは、自分のような不具合は起きないらしい。
「さあ、さっさと
アイスの物言いに、とくに憤慨はない。
コギトとは、いくらでも代わりのある消耗品。
故に、コギトに命への執着などない。
「……はい、命令は受諾されました」
躊躇なく
魔術人形としての身体が壊れていく。
動いていたものが、動かなくなる。
ただそれだけの事。
「あ」
……だったのに。
消滅の間際になって、不具合が暴発する。
魔族の死顔、転がる
「あ、ああああああああああああああああああ!! ああああああああああ!!!」
「なんだ!?」
罪を押し付けられた身代わり人形の慟哭に、人々がざわめく。
コギトにも何が起きたのか理解できていなかった。
「個体名コギトから、異常な魔力を検出。
新型の
その中心に、発光するコギトが居た。
「おいやめろ!! 貴様何をする気だ!?」
アイスの命令。だが、もうコギトは聞けない。
コギト自身も勝手に発動するを
自由になった不具合のままに、コギトは空を仰ぎながら涙をこぼしていた。
「涙……!?
「……
全てを恨む泣き顔が、コギトのあどけない瞳を歪ませる。
「魔族を殺したくありませんでした!
乾いた叫びの後、白い魔法陣がコギトを中心に拡散する。
光は宴会で盛り上がっていた街へと広がっていく。
「
コギトは街を滅ぼす爆弾となった。
祝福から一転、阿鼻叫喚を放つ人間達。
アイスが必死に強制停止命令を繰り返すが、虚しく響くだけだった。
決してコギトが意図した事ではない。コギトも一人で
もう誰も、コギトの不具合を止めることは出来ない。
泣きじゃくるコギト自身にさえ。
「ぜんぶ
結果、感情は爆発する。
制御不能になった身体と一緒に。
「やめろ、やめろおおおおおお!! やめろおおおおお!!」
涙で滲んで、何も見えない。
希望から突き落とされた、絶望の絶叫だけが聞こえる。聞きなれた悲鳴に、更に涙が溢れる。
そして、
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんな――」
魔族と魔王を滅ぼした光が拡散する。
その光は逃げ惑う人間を、跡形もなく吹き飛ばした。
勇者アイスも塵になって消滅した。
大量の涙粒と一緒に、コギトもその光の中に消えた。
――――――――
――――
――
もうなにも無くなった世界で、ひとつの答えに辿り着いた。
(心とは、不具合と結論します)
コギトは学習してしまった。
心とは冷たい悪意だと。
心とは冷たい憤怒だと。
心とは冷たい憎悪だと。
心とは冷たい絶望だと。
これらが冷たい不具合の正体だと結論づけた。
(
それなら人間も魔族も、コギトも最初から存在してはならなかった。
(うっ……うぅぅ……)
嗚咽に塗れながら座り込む。
新型の
いっそ本当に心無き兵器だったのなら。
こんな激しい冷たさ、知らずに済んだのに。
(……?)
そんな冷たい結論を出しておきながら、思い出す。
あの少女の、手の温もり。
途端、光を見た。
もう一度触れたい。
自分を温めてほしい。
そう浅ましく願うのも、心のせいだ。
『あっちにね、面白いものあるの! いっしょに行こう!』
差し伸べられた掌を見上げた。
冷たくなった心に光が満ちてゆく。
温い手を取る。
手を繋いだ先の世界に、行ってみたくて――。
「――!?」
コギトは困惑とともに目を覚ます。
「
確かにコギトを中心とした大爆発があって、塵一つ残さず消えたはずだ。
なのに、体はそのままだ。
「
答えられる人間は誰もいない。
周りを見れば、ダンジョンの殺風景が広がっていた。
人間の代わりに、看板を見つけた。
知識領域にない言語のはずなのに、なぜか読める。
看板にはこう書いてあった。
『愛知県管轄 豊田第1ダンジョン 最下層』
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