第4話



「あ、あ、あ……」



「あ?」



「あ、アメェェェさん!!?」




羊の鳴き声のような声を発した彼は、「え、は、来るのって今日!?」と混乱している。



学校にあたしが来ることは知っていたけど、それが今日だとは知らなかった様子だった。




……てか、そんな事よりもさ?




「あははっ! も、もう限界っ! コウのス、スーツ姿があははは!!」



「はぁ? それよりも俺、アメさんに聞きたいことが……」



「あひゃひゃひゃ!!」



「ちょっ、一旦止まってくださいって!!」




コウが手をパーにして“止まれ”のポーズをとる。が、あたしの笑い声が止む気配は一向にない。




だって、ガラの悪いヤンキーのような風貌に黒スーツだ。



もう教師じゃなくて借金取りにしか見えないってのに、ボタンは全部留めてキッチリしてるもんだから余計耐えられない。





「っ無理、止まらな、あははひゃひゃ!!」





隣から「アメのあの気持ち悪い笑い声、全然変わってねえなー」なんて失礼な声が聞こえた気がした。







─────────…




「あーー、笑った笑った!」




コウのスーツ姿で笑い続けて、やっと笑いが収まった。



……途中から気持ち悪い声になってたと思うけど、そんな事はわかってる。



でもツボにはまると、どうしてもあんな笑い声になってしまうんだ。




「笑いすぎですって!!」




耳を真っ赤に染めているコイツの名前は、荒野こうの ゆう。歳は27。



彫の深いワイルドな顔立ちで、昔の明るい茶髪が今では暗い茶髪になっていた。



あたしは苗字から取って「コウ」と呼んでいる。





──キーンコーンカーンコーン





「……あのさ。あたしのクラスってどこだっけ」





予鈴が鳴り、授業の存在を思い出して二人に尋ねた。




「そういやアメさん、俺のクラスの“転校生”じゃないですか!」



「ちょっと待て。行く前に頼みたいことがあるんだけど」




コウと一緒に教室に向かおうとしたのを、なぜか暁に止められた。



頼みにくいことなのか、なかなか内容を教えてくれない。




「その……、今から屋上の戸締まりを確認してきてくれねぇか?」



「今から? もうすぐ朝礼始まるし、放課後ならいいけど」




そう伝えると、暁はしばらく頭を捻って。




「……確認したら今日はもう帰っていいって条件ならどうだ」



「え、いいの!?」




“今行ってくれるなら”を何度も繰り返す暁。



それだけでもう帰っていいなら行くに決まってる!




頼みを受け入れたら、「鍵は持って帰っていーから」と銀色の少し錆びた鍵を投げつけてきた。



それもかなりのスピードで。




キッと奴を睨めば、てへっと笑顔でウインクしてくる。うぜぇ。





「……わかった。じゃ、また明日!」





屋上の鍵を握りしめて、あたしは理事長室から飛び出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る