第4話
「あ、あ、あ……」
「あ?」
「あ、アメェェェさん!!?」
羊の鳴き声のような声を発した彼は、「え、は、来るのって今日!?」と混乱している。
学校にあたしが来ることは知っていたけど、それが今日だとは知らなかった様子だった。
……てか、そんな事よりもさ?
「あははっ! も、もう限界っ! コウのス、スーツ姿があははは!!」
「はぁ? それよりも俺、アメさんに聞きたいことが……」
「あひゃひゃひゃ!!」
「ちょっ、一旦止まってくださいって!!」
コウが手をパーにして“止まれ”のポーズをとる。が、あたしの笑い声が止む気配は一向にない。
だって、ガラの悪いヤンキーのような風貌に黒スーツだ。
もう教師じゃなくて借金取りにしか見えないってのに、ボタンは全部留めてキッチリしてるもんだから余計耐えられない。
「っ無理、止まらな、あははひゃひゃ!!」
隣から「アメのあの気持ち悪い笑い声、全然変わってねえなー」なんて失礼な声が聞こえた気がした。
─────────…
「あーー、笑った笑った!」
コウのスーツ姿で笑い続けて、やっと笑いが収まった。
……途中から気持ち悪い声になってたと思うけど、そんな事はわかってる。
でもツボにはまると、どうしてもあんな笑い声になってしまうんだ。
「笑いすぎですって!!」
耳を真っ赤に染めているコイツの名前は、
彫の深いワイルドな顔立ちで、昔の明るい茶髪が今では暗い茶髪になっていた。
あたしは苗字から取って「コウ」と呼んでいる。
──キーンコーンカーンコーン
「……あのさ。あたしのクラスってどこだっけ」
予鈴が鳴り、授業の存在を思い出して二人に尋ねた。
「そういやアメさん、俺のクラスの“転校生”じゃないですか!」
「ちょっと待て。行く前に頼みたいことがあるんだけど」
コウと一緒に教室に向かおうとしたのを、なぜか暁に止められた。
頼みにくいことなのか、なかなか内容を教えてくれない。
「その……、今から屋上の戸締まりを確認してきてくれねぇか?」
「今から? もうすぐ朝礼始まるし、放課後ならいいけど」
そう伝えると、暁はしばらく頭を捻って。
「……確認したら今日はもう帰っていいって条件ならどうだ」
「え、いいの!?」
“今行ってくれるなら”を何度も繰り返す暁。
それだけでもう帰っていいなら行くに決まってる!
頼みを受け入れたら、「鍵は持って帰っていーから」と銀色の少し錆びた鍵を投げつけてきた。
それもかなりのスピードで。
キッと奴を睨めば、てへっと笑顔でウインクしてくる。うぜぇ。
「……わかった。じゃ、また明日!」
屋上の鍵を握りしめて、あたしは理事長室から飛び出した。
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