第3話




「お前、なんで“天色”を抜けたんだ」






──“天色(テンショク)”




天色というのは、全国No. 1の暴走族のこと。



主に薬、強姦、恐喝、リンチなどの汚いことをする族を潰している。



そしてあたしはつい最近まで、“男”としてその族の総長をやっていた。





「……ごめん。言えない」





暁たちには理由を話さないと決めている。




これ以上、あたしの問題に彼らを巻き込みたくはない。




「…………わかった。でも迷惑なんて思わないで、辛くなったらちゃんと言えよ? みんなお前が大切で、心配なんだ」



「……ありがとう」




こういう時、いつも暁は無理やり聞き出そうとしない。



そんな優しい彼の悲しそうな表情を見たくなくて、あたしは自分の足先に視線を落とした。





「──あ、そうだ。今からアイツ呼ぶからちょっと待ってろ!」




暁はさっきまでの真剣さが嘘だったかのような明るい声を出した。




でも呼ぶってどうやって?



そう聞くより先に、「まぁ待ってな」悪い笑みを浮かべて黒色の携帯を耳に当てた。





「荒野先生。10秒以内に理事長室、来なかったら減給な!」





楽しげな声でそんな理不尽な言葉を放ち、彼はブツリと通話を切った。



そして「これならすぐ来るだろ」と満足そうに笑っている。



……うわぁ。アイツ、いつもこんなのと付き合ってて大変だな。




今急いでこちらに向かっているだろう相手に本気で同情していれば、遠くから騒がしい足音が聞こえてきた。




「お、来た来た」




暁がドアの方に目を向ける。



次第に足音が大きくなり、バアァァンッ!!と、ド派手な音と共に息切れの激しい男が現れた。




「ハァ、ハァハァ……っおま、きゅ、きゅりょ、、きゅーりはダメだろ!!」



「……今なんつった?」



「っだーーもう! で? 俺は何のために呼び出されたんだよ!!」



「まー落ち着けって。ほら、俺の隣にいるヤツのこと見てみろよ」




暁が興奮している男をなだめ、くいっと自分の顎をあたしに突き出す。



ちょ、顎で人を指すな。





「はあ!? 隣に何があるって…ん………」





あ、バッチリと目が合った。




そして壊れた機械のように動かなくなったアイツ。




あたしが“天色”の元総長であることを知る一人でもある。





「久しぶり、コウ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る