第2話



「はぁ、はぁ……っ」




全力疾走でこの学校、『私立櫻木(サクラギ)高等学校』まで来た。



それに最上階の三階まで三段飛ばしで上がってきたもんだから「はぁ、」疲れた。




頭上には『理事長室』の文字。



時間は────よし、ギリギリセーフ。




ふぅ、と息を整え身だしなみを簡単にチェックする。



二回ノックしてからドアを開けた。





「失礼します。今日からこの学校に通う予定の……、っ」





両手に顎をのせ高級そうな椅子に座っているのは、おそらくこの学校の理事長。




綺麗な黒髪がさらり、揺れる。




その少し童顔で整った顔立ちをあたしはよく知っていた。




「あか、つき……?」



「アメ、久しぶりだな!」




ニカッと白い歯を見せて笑う。





「え、えええ!! 待って、なんでいんの!?」





彼は、桐島きりしま 千暁ちあき。たしか今年で30歳。昔は派手だった金髪が今では綺麗な黒髪に変わっていた。



あたしは千暁の「暁」を取って「アカツキ」と呼んでいる。




「なんでって、俺がここの理事長だからに決まってんだろ?」



「いや初耳だよ」




大学を卒業してから一度も会ってなかったからなぁ。




まさか高校の理事長になってるとは思わなかったけど………なるほど。



父さんこの学校を選んだのは、理事長が暁だったからか。



それならそうと先に言ってくれたらよかったのに。




「てか暁がいるってことは───」



「あぁ、アイツもいるぞ。ちなみにお前の担任な」



「担任!? ……アイツちゃんと出来てんの?」



「まあ、結構真面目にやってるな。うるさいのは相変わらずだが」



「まじか。全然想像つかないや」




うるさいのは簡単に想像できるけど。




でも教師ってことは、ちゃんとスーツを着て生徒に勉強を教えたりしてるのか……



っ、やばい。アイツのスーツ姿って考えただけでも面白い!




どう頑張って想像しても教師には見えないアイツに、心の中で笑っていたら。





「なぁ、一つ訊いていいか?」





暁の表情が真剣なものに変わった。




正直、訊きたい事はわかっているが、あたしからは言わない。




…………言いたくない。




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