櫻木高校

第1話




「んー〜〜…、寒っ!」





まだ少し眠気が残っていたが、毛布を退けて襲ってきた寒さで完全に目が覚めた。



カーテンの隙間から差し込む陽の光に目を細め、ゆっくりと体を起こす。





「(今日からか……)」





今まで不登校だったあたしは、今日から学校に通う。



正直行きたくないけど……なぜか父さんに他県にある高校への転入を強制され、その県に引っ越しまでさせられて行くことになった。




だけど今は6月。しかもあたし高校二年生。




……すっごく微妙な時期だ。





まあでも、あたしが通うとこは“不良校”らしいから、不登校も珍しくはないか。




それも県内一有名な不良高校────




って、どうせなら普通のとこに通いたかったんだけど!!




……はあ。盛大な溜め息をついて、あたしは昨日ドアにかけておいた皺一つない新品の制服を手に取った。



紺のブレザーとチェックのスカートに、深い青のリボン。



今日は風が強いからブレザーの下に薄手の青いパーカーも着る予定だ。




そして。最後に黒色のカラコンをつけ、黒髪のウィッグを被ったら準備完了!



髪の長さは肩につかないくらいで、わざわざ前髪の中央に青のメッシュを一本だけ入れた。




不良校だから派手な髪や目の色でも目立たないはずだけど……




それでも、あたしがこうして変装紛いなことをしているのにはきちんと訳がある。





と、のんびり支度をしながら考えていたら。




枕元にある目覚まし時計が『AM.8:05』を表していることに気がついた。




まだ朝礼まで時間があり、自宅から学校まで徒歩5分と近いけれど、今日は8:10に理事長室に来てほしいと言われている。





「(やっべ、もう出ないと)」





筆記用具しか入っていない軽い制カバンを肩にかけ、慌てて玄関へ向かう。






「じゃ、行ってきまーす!」






ガチャン。





────その虚しい音が、誰も居ない家によく響いた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る