第51話 年末の実家
クリスマスから1週間もせずに年末になる。25日から6日経ったら31日なんだから、数字で考えると当たり前のことを言っていると思うんだけども……実際に実感すると滅茶苦茶短く感じてしまう。
僕とスズは、荷物を持って電車に揺られていた。いつ来ても人があまり乗っていない電車の中で触れあうような距離感で座っていると……本当にたまに人が載ってきて、僕とスズを見て楽しそうに笑うのだ。田舎はここら辺がおおらかでありながら面白い所だと思う。
それなりの時間を電車に揺られ、終点まで辿り着くと……スズが懐かしむような顔で目を細めていた。
「覚えていますか? 今年の夏に、貴方がこの電車に揺られて実家に帰ってきた時……私と夢の中で喋った時のことを」
「……寝ぼけてたし、その時に聞いた言葉は耳からすり抜けていった感じがしたからあんまり覚えてない。けど、白色の綺麗な女の子が喋っているような気配は覚えてる」
「ふふ……あの時は私が幼い姿で人間の形をしていたので、敬語も使わずに貴方の夢に干渉したんですよ」
「へー……敬語じゃないスズかぁ」
あんまり想像はできないな。
「もうあんな生意気な口調にはなりませんよ」
「まだ何も言ってないよ」
「もう目が言っていましたよ。一回だけでもいいからそんな風に接してくれって」
本当かな。だとしたら僕、普段からスズに考えを全て読まれているんじゃないかな……結構顔に出るタイプだと思うんだよね。
サクっと言う音を立てながら雪の上を歩く。どうやら都会よりも結構降ったらしく、数センチの雪が積もっている。
「……寒いです」
「そうだね。流石に僕も寒いと思うよ……ほら」
雪がちらついている中、僕とスズは傘を差して歩いている。これぐらいの雪なら傘はいらないかな、なんて思っていたけど……スズが寒さに弱すぎることを考えると流石に傘が必要だと判断した。雪の中を歩いているスズは、もう見ていられないほどにガタガタ震えていたので、少し強引に腕を絡めて抱き寄せてあげると……嬉しそうにしながら抱き着いてきた。
しばらくその状態のまま歩き、家の前に着いた頃には僕もスズも寒さで震えていた。
インターホンを鳴らすと、家の中からドタバタと走る音が聞こえ……勢いよく扉が開けられ、そこから由衣が飛び出してきた。
「おかえりお兄ちゃん! 寒かったでしょ? 中はストーブついてるから早く入って暖か……く、なったほう……が?」
「ただいま」
「お久しぶりです」
「…………お母さん!? お兄ちゃんが女の人を連れ帰って来たよぉ!?」
言いたいことだけ言って、そのままドタバタと家の中へと引っ込んでいった。
「うるさい妹でごめんね」
「いえいえ。私の義妹でもある訳ですから」
ちょっと気が早いような気がしなくもないけど……まぁ、合っているから否定はしないでおこう。
スズのことを考えてさっさと家の中に入り、リビングの扉を開けると……懐かしい我が家の冬の景色が目に入り、同時に温かい空気が僕と冷たくなった肌を撫でる。
「おかえりなさい、それといらっしゃい白沢鈴奈さん」
「は、はい、お邪魔します」
「ね!? 本当に女の人でしょ!?」
「そ、そうだねぇ……僕も驚いちゃったよ」
「あ、お父さんには連絡してなかった」
「私も貰ってないよ!?」
いや、由衣に言ったら面倒なことになるのはわかってたから、お母さんにも言わないようにって約束させたんだよね。実際に、まさに面倒なことになりかけてるし。
「一度だけお会いになりましたよね? 改めまして、白沢鈴奈です。蓮太郎さんとは……恋人、になるんですか?」
「どっちかって言うと婚約者かな」
「え?」
「んー? 母さん、僕は何も聞いてないんだけど」
「私も今、初めて聞きましたよ」
言ってないからね。
とりあえず寒さに弱いスズを炬燵に入れて、僕は真剣な顔で両親に向き合う。僕とスズの関係はしっかりと話そうと思っていたのだ。それに、こういう重要な話は早いうちにしておいた方がよかったりする。
「さっきの言葉通り、僕はスズ……白沢鈴奈さんと結婚するつもりです」
「……どうしたの、急に。若気の至り? 確かに初彼女だから興奮するのは理解できるけれど、そんなこと言ってると後悔することになるわよ」
「理解できないのはわかってる。けど……これは勢いで決めた訳じゃない、深い理由があるんだ」
ちらりとスズに視線を向けると、彼女は無言で頷いていくれた。
息を吸い……決死の覚悟で僕は真実を両親に告げる。
「スズは、人間じゃない」
「え? お兄ちゃん、何言ってるの? どう見ても人間じゃん」
「スズは、僕たちが毎年初詣に訪れていた白蛇神社に祀られている神様の1柱で、子供の頃に僕は彼女と遊んだことがあった。今年の8月に再開して、色々とあったけど僕はスズと想いを確かめ合って結婚することにした。人間の結婚とはちょっと違うけど、僕はしっかりと熟考して考え出した結論だと思ってる」
由衣は理解不能って感じで視線を右往左往させているが、両親は僕が真剣な目で語っていることを確認して……溜息を吐いた。
「ちょっと理解できない部分が多いから整理させて」
「うん」
「まず、その子は人間じゃないって言うけど……その証明はできるの? まさか特殊な結婚詐欺に引っかかってる訳じゃないわよね?」
「それに、僕たちになんの相談も無く子供が熟考しましたって言われても、そう簡単に受け入れられないよ」
両親の言葉は当たり前のものだった。それを説明するのが僕がこれからやらなければならないことだ。
「ふむ……失礼するぞ」
覚悟を決めてしっかりと伝えようと思って口を開こうとしたら……背後の扉が開いてそこから純白の和服を身に着けた妖艶な女性が入って来た。
「妾がしっかりと説明してやろうではないか」
「お、お母様!?」
「え!? クレナイさん!?」
年末の挨拶に来たいとは言っていたけど、僕とスズが家に到着した瞬間に部屋に入ってくるなんて、明らかにどこかでこちらの動きを監視していたとしか思えない。
僕とスズの驚きを無視して、クレナイさんは僕の両親の前に立って妖艶な笑みを浮かべた。
「初めまして、だな……妾は■■■■■■という。まぁ、クレナイとでも呼んでくれ」
「は、はあ……その、スズさんの、お母様?」
「うむ。娘が婿殿の挨拶に向かうと聞いたので、京の都からすーっとやって来た訳だ」
「わ、わざわざ京都から……」
お母さん、気にする所がそこなんだね。
「難しいことはなにもない。妾も神で、スズもまた神である……お主ら人間が逆立ちしても存在からして勝つことが不可能なもの。それが神だ」
クレナイさんの放つオーラは威圧的だ。まるで僕の両親を試すような言動なので、僕が立ち上がってそれを止めようと思ったのだが、それよりも先にお母さんが口を開いた。
「ここは我が家です。そして、スズさんは蓮太郎の親である私たちに挨拶をしに来た。それを邪魔するなんて許せません……貴女の話は後にしてください」
「……これは驚いた。神に対してそこまで強く出られるとは」
「神とか人間ではありません……親として、言っているんです」
お母さんの言葉を聞いて、クレナイさんは少し呆けていたが……すぐに笑いながらその場に座り込んだ。
「わかった。なら人間のルールに従うとしよう……ただし、妾も母親なので、スズの味方をさせてもらうぞ?」
「それは問題ないですよ」
なんか……僕たちの知らないところで母親バトルが始まってるんだけど。スズもどうしていいかわからないって顔だし、お父さんは既に諦めた顔してるよ。
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