第48話 クリスマス

 修学旅行からそれなりの月日が経った。

 文化祭以降、僕とスズは基本的にクラス内で浮いた存在として見られているから、特に他人を関わることなく、学園生活を送っていた。まぁ、正直に言ってしまえば元に戻っただけなのだ。友達なんていなかった昔に戻っただけで、別に特別に変わったことなんてない。

 他人を関わらなくなると必然的に時間が増え、僕の成績が向上していたのが面白い所だと思う。受験勉強なんて言って必死になっている彼らよりも、スズと結婚するから受験を受ける気はないって僕の方が成績が良くなっているんだから。それだけ心に余裕があるからかもしれない。


「ねぇ、スズってクリスマスのことどう思ってるの?」

「……人間が儲かる為に始めたイベント?」

「おぉ……」


 それほど間違った認識でもないのがちょっと面白いな。

 クリスマスとは、元々はイエス・キリストの誕生を祝う日なので、日本の神であるスズには全くと言って良い程に関係がないイベント。だから人間が儲ける為に色々な催しをしているって意味では……合っているのかもしれない。


「イエス・キリストが生まれたことを祝うお祭りなんだよ」

「誕生日ということですか?」

「違うよ。誕生したことを祝う日だから、別に誕生日って訳じゃないんだ」


 たまに勘違いされているけど、イエス・キリストは別に12月25日に生まれた訳ではない。聖書を読めばわかることだけど、夏から秋の時期に生まれているのだ。生誕祭が何故12月25日になったかというと……諸説あってはっきりしていない。よくもまぁ、そんなあやふやなお祝い事で盛り上がれるものだなと、ちょっと感心するよね。


「クリスマスの日、ちょっと家で豪華な食べ物とか食べたいな」

「わかりました……私が頑張って作ります!」

「え、そこまで気合入れなくてもいいからね? ちょっとチキン買ってきて食べようかな、程度の考えだからね?」

「はい、わかっています。私が自分の持てる全ての力を使って、必ずや蓮太郎さんが満足できる料理にしてみせます」

「ちょっと? スズさーん?」


 駄目だな……全く聞こえてないわ。

 それにしても、日本人はなんでもありだよな。8月にはお盆、12月にはクリスマス、1月には神社で初詣、2月にはバレンタイン、あらゆる宗教のイベントを取り敢えずで楽しんでいる。なんなら、初詣と言いながら寺に言って2礼2拍手1礼するような民族だからな……根本的に宗教ってものへの考え方が適当すぎる。


「……日本人で神のこと適当に考えてるよね?」

「そうでもないですよ。なんだかんだ言って、日本人は常に神がいることを気を付けていると私は思います……他の国の人なんて知りませんけど」


 そうか……神様がそう言うなら、そうなのかな?


「悪いことをしようとしても誰かに見られているかもしれないなぁ、なんて思うじゃないですか」

「それは単純に犯行を見られたくないだけでは?」

「それもあるでしょうけど、やはり心ではなにか超常的な存在に見られているかもしれない。そして天罰が下るかもしれないと思っているものですよ。神だから、そこら辺は敏感に感知できます」


 へー……てか、そういうのセンサーみたいに感知できるんだ。


「ま、神は基本的に人間のことを眺めているだけで助けることも罰を下すこともあんまりしないんですけどね。なにか幸運なことがあったら神の祝福だ、なんて思う人も世の中にはいますけど、あんなのただの錯覚ですから」

「ひ、酷い……」

「あ、でもたまに面白半分で天罰下したりする神もいますよ」

「更に酷い」

「私はそもそもそこまで人間に興味がなかったので手を出したことはないですけど」

「これも結構酷い」


 なんか、神って人間より力を持っているだけの存在であって、大いなる視点みたいなのはないんだなって。いや、クレナイさんを見ていればわかるんだけどね? あの人なんて明らかに自分の欲望のままに生きているって感じだし……スズだって僕の傍にいたいって欲望のままに行動している訳だ。

 神なんて寿命もなく、超常的な力が使えるんだからきっと高尚な存在なんだろうなって考える方が馬鹿らしいってことだな。まぁ、実際に高尚な神も低俗な神も、どっちもいるんだろうけど……そこら辺も人間と同じか。


「初詣か……来年もちゃんと白蛇神社に行こうかな」

「そうしてください。祀られているこの私が、蓮太郎さんに加護を授けてあげます」

「へー……でも、あの神社は本当に管理されているだけでお守りとか売ってないから、別の神社にも毎年行ってるけどね」

「むー!」


 痛い……そんなポコポコ殴られてもお守りが売ってないんだからしょうがないじゃん。僕だって白蛇神社の中でお守りがちゃんと帰るんだったらそっちで買ってるよ。


「わかりました。私の力を込めた鱗をお守り代わりに持っていてください」

「部屋に飾ってあるじゃん」

「あれは私が蓮太郎さんに会いに来るためにあげたもので、別に加護なんてついてませんから。ちゃんと蓮太郎さんをあらゆる不幸から守ってくれる幸運の白蛇としての力を、授けてあげます」

「……なんか、人間じゃなくなりそうだからいいや」

「どういう意味ですか!?」


 だってあらゆる不幸から守ってくれるって……明らかにもう、幸運体質なんて言葉でも収まらない人間になりそうじゃん? だってスズ、そこら辺の加減が下手そうだし。


「別に僕ばスズが傍にいてくれるだけでいいよ。スズが不幸から守ってくれるでしょ?」

「そ、それは……そうかもしれないですけど」


 おぉ……スズがなんとなく頬を赤らめて照れている。

 ちょっと可愛かったので僕は正面からスズを抱きしめる。学校の中とかだったら絶対に自分からやることはないんだけど、ここは家の中だから……僕だって多少は積極的になるのだ。

 なんとなく……こうしてスズの触れ合うのが日常になってきた気がする。夫婦になるのだからそれなりにスキンシップを取っているのは勿論なんだけど、僕も少しずつ女性の扱いそのものに慣れてきたって言うか……緊張することがなくなったかな。まぁ、僕が慣れたのはスズへの接し方だけで、他の女性と交際できるとかモテるとか全く思っても無いんだけどね……やっぱり僕は何処まで行っても陰キャですから。

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