第32話 僕はスズに弱い
自分で言うのもなんだけど、僕は割と頭が良い方なのでテストそのものを苦に思ったことはない。なんなら、テスト中の学校に漂う特殊な雰囲気が好きだ。みんないつも通りに喋ろうとしているのに、なんとなく学校全体にほのかな緊張感が走っていて、どうにも非日常的な感覚がしてならないこのテスト中の雰囲気が。
「スズ、思い切りサボってたね」
「……だって、私がテストなんて受けても仕方ないじゃないですか」
どんな手段を使っているのか知らないけど、スズはテスト中に教室からふらっと出て行って、終わる前にふらっと帰ってきた。誰にも認識されずに動くことができるのは神様の力なのか……それとも単純にスズだけの力なのかわからないけど、藤原さんにすら認識できていなかったその行動を見ると僕は苦笑いが浮かんでしまう。
藤原さんですら認識できていなかったと言うことは、普段からスズを監視している藤原さんの努力は無駄ってことになるので……ちょっと可哀想かもしれない。
「テストが終わったら買い物に行きませんか?」
「買い物?」
「はい。最近、寒すぎてまともに動ける気がしないので……温かくなるようなアイテムを買いに行きましょう」
「カイロとか?」
「そうですね……でも、私が求めているのはオシャレなコートです!」
んー……10月ぐらいにそんなコートを着ていて、真冬になったらスズは動けるのだろうかと思ってしまうが、その時に考えよう。
しかしオシャレなコートか……確かに、最近のスズは家で勉強している横でファッション雑誌みたいなものを読んでいたけど、人間のファッションに興味がわいてきたのだろうか。神様だってオシャレぐらいしたいだろうし……ここは頑張って母から振り込まれている生活費で買ってあげよう。ここで自分でバイトして手に入れたお金って言えないのが、僕の駄目な所なのかもしれない。
テスト、と言っても中間テストなのでそこまで長い期間をかけてやるものではない。2日で全てが終わるので……今日のテストが終わったら次が最後になる。
「おつかれ……柳は頭いいんだよな?」
「白天高校に入学してたらみんな頭いいと思うよ」
「そうかな? まぁ……世間的に見ればそうかもしれないけど、その中でもまた順位ができる訳だろ?」
厚木くんが喋りかけてきたけど、すごいフランクに接してくれるな。僕は人間との距離感を見誤るタイプなので、こうして厚木くんの方が調整してくれるのならばそれに喜んでただ乗りさせてもらおう。
「白沢さんはどうだった?」
「……ボチボチですね」
そもそもテスト受けてないとは返せなかったのか、スズは目を逸らしながら小さな声で答えていた。スズは基本的に他人に対して興味を抱かない性格だが、僕が仲良くしているからという理由で厚木くんにはそこそこ応対するようになっている。できた妻ならば夫の友人としっかり喋られるようにならなければ、と家で意気込んでいたのを知っているので、ちょっと微笑ましいものを見るような感じの視線を向けてしまう。
「2学期末テストは大学受験にそのまま響くって言うからなぁ……中間はそこそこでいいけど、次の期末テストはしっかりと対策しないと」
「厚木くんは勉強もできるでしょ?」
「努力しないと追いつけないけどね。勉強苦手だし」
意外だな……厚木くんなんてなんでもかんでも完璧にこなせるぐらいに思っていたんだけど、どんな人間にも欠点は存在しているらしい。それでも、しっかりとその欠点を克服したくて努力しているのだから、あんまり欠点とは言えないかもしれないけど。しかし……大学受験か。
「厚木くんは、行きたい大学とか決まってるの?」
「ん……俺は、できるなら大学でもバスケが続けたいな、なんて考えてるかな」
「大学でもバスケかぁ……プロを目指して?」
「まぁね」
おぉ……プロのバスケットボール選手か。
「最近はテレビとかでもよく見かけるようになったよね、プロバスケ」
「お、結構プロスポーツとか見るのか?」
「まぁ……人並みには? 野球はよく見るけど」
野球ってなんであんなに熱中できるのかよくわからないけど、僕はゲームも含めて結構野球が好きだ。でも、バスケットボールだってよく見るし、平均的な一般国民としてサッカーの国際試合とかも見たりする。うん……スポーツは結構見る方かな。
「バスケのな、強豪の大学に……うちに来ないかって誘いは来てるんだ」
「へー……え?」
「スポーツ推薦を使えば結構何処でも行けそうなんだけどな。でも色々と迷ってる」
スポーツ推薦? 誘いが来てる?
「その、結構すごいことなんじゃないの、それって」
「すごいかすごくないかで言ったら、多分すごいと思う。けど、プロ選手目指すならスタートラインみたいなものだろ?」
確かに、そうかもしれないけど……それでもやっぱりなにかに熱中して才能を発揮するってのはすごいことだと思う。
「スズもすごいと思うよね?」
「えぇ……人より優れた才能を持っていたとしても、それを発揮できずに腐らせる人間というのは往々にしているものです。才能を少しでも発揮できているのならば、それは素晴らしいことだと私は思いますよ」
「お、おぉ……白沢さんに褒められるなんて思ってなかった」
「蓮太郎さん、もしかして私ってクラスの中で冷徹な人間だと思われてますか?」
「うん」
スズには悪いけど即答で頷かせてもらう。実際、スズは他人に対して冷たくしか接しないから遠巻きにされている訳で、それを冷徹と呼ばなかったらなにを冷徹と呼ぶのだろうか。
「……蓮太郎さんの為にももう少し社交性を磨いた方がいいのでしょうか?」
「あ、でも白沢さんはそのままでもいいと思うよ。その冷たい感じがクールでかっこいいって思ってる女子も多いみたいだし」
「女子なんだ……そう言えば前にも女子からラブレター貰ってたね」
スズの美しい外見は、男女問わずに全ての人々を魅了するものだと思うけど、やはり女性は余計にこういうクール系の美人が好きなんだろうか。男性だと、そのクール系の美人が自分にだけ甘えて来るみたいな部分が好きな人が……スズって僕にだけ甘えてくるからそのものじゃん!
僕がスズに弱い理由が、なんとなくわかってしまった気がした。
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