第29話 まだ、清らかな関係
「それで、話って?」
「あぁ、実はちょっと困ったことになってて、君に助けて欲しいなって思ってさ」
「友達沢山いるのに? なんで僕?」
男としてはヒョロガリなので力も無いし、別に特別な資格や知識を持っている訳でもないので、クラスの人気者である厚木くんに頼られるような人間ではないと思うんだけど。
「いや……文化祭終わったら、次は修学旅行があるだろ? そこでさぁ……班決めとかの問題が起こるんだ」
「起こる?」
「まぁ、包み隠さずに言うと、藤原さんと白沢さんの2人とまともにコミュニケーション取れるのがお前しかいないって言うか」
「藤原さんは話しかければ普通に返答してくれると思うよ。最近は仕事も落ち着いているみたいだし」
スズの担当になったおかげで遠出の仕事が減ったと、皮肉混じりに言われたからね。
「マジか。いや、喋りかけても冷たくあしらわれている印象しかなかったから」
「そうかな……そうかも」
そうかもしれないと思うぐらいには、藤原さんもあんまり他人と関りがある人間ではない。あれは多分、僕と同じように幼少期から人には見えないものが見えるが故の距離感なんだろうけど。でも、根が良い人だから話しかければ普通に接してくれると思う。僕は既に面倒くさい関わり方をしているので、僕から行くと逆に面倒な顔をされると思うけど。
「スズに関しては……ごめん、僕から言っておくよ」
「ありがとう」
スズはマジで僕以外の他人に対して興味を持っていないので、そういう部分は僕がしっかりとしていかないと駄目だよな。
「……柳、結構いいやつだな」
「え?」
「いや、今までずっとクラスの端っこで1人でいただろ? でも、こうして喋ってみるといいやつなんだなってすぐにわかるぐらい、誠実な対応をするだろう?」
「してるかな?」
結構、僕は僕にできることだけを了承して、それ以外は無理ってきっぱりと断っているだけな気がするけど。
「いい人で誠実ってなんか……モテない男の代名詞みたいな感じだね」
「そうか? でも、モテるだろ?」
「スズにだけね」
僕のことをあんなに愛してくれているのはスズだけだよ。こんな顔も平凡な芋顔で特徴のない男のことを、この世で最もいい男みたいな感じで接してくるのはスズぐらいなんだから。
「そもそも、厚木くんにモテるって言われても嬉しくないな……君みたいな爽やかスポーツ系高身長イケメンに言われても」
「人間は中身だよ」
「いや、初対面の印象が8割だと思う」
これは僕がネガティブな訳ではなく、実際にそんなものだと思う。
「……やっぱりいいやつだ。仲良くできそうじゃないか?」
「それって僕の友達になってくれるってことか!?」
「うぉっ!?」
ついに、僕に男の友達ができるのか!?
前のめりに厚木くんに近寄ると、少し引いた感じで苦笑いを浮かべられてしまったので僕は少しだけ距離を取ってから咳払いをした。
「僕らは友達ってことでいいのかな?」
「うん……思ったより面白いな。柳ももっと色んな人と喋ればいいのに」
「それができたら陰キャなんてやってないよ」
「陰キャじゃないと思うけどなぁ」
僕は陰キャだと思うよ。
元々は霊能力関係で嫌な目を見てきたから、人と関わることを避けるようになっただけのことなんだけど……それをするようになるとどんどん人間のコミュニケーション能力って落ちていくもので、今は霊能力とか全く関係なく僕はただのコミュ障陰キャになってしまっているのだ。それでも、人と話すこと自体が滅茶苦茶苦手って訳ではないのは……多分、妹のせいだな。
「じゃあ、白沢さんに修学旅行のこと、よろしく頼む」
「わかった」
よし、初めての男友達ができたってことでちょっとテンション上がってきたな。スズにもしっかりと頼まれたことを喋っておかないと……あれ、そう言えばスズって京都に行きたくないって言ってたな。
「修学、旅行……まさか私に対して嫌がらせをするためだけに京の都へ?」
「いや、ずっと前から決まってることだから」
「行きたくない……私はあんな魔境に行きたくないです」
教室に戻った僕がスズに対して修学旅行の話をしたら、絶対に行きたくないと駄々を捏ね始めた。
「いいじゃん、僕と旅行気分で行けば」
「う……そう言われるとなんとなく心惹かれるのですが、京は……どうしても難しいです」
「どうしてそこまで? なにか……嫌な神様がいたりするの?」
「それはもう、私より遥かに格上の神様がわらわらと……田舎で祟り神として井の中の蛙をしていた私なんか、豆粒みたいに圧し潰せるような存在ばかりですから」
「そう聞くと怖い所だな……京都」
人間からすると色んな観光地がある場所ぐらいのイメージなんだけど、スズのイメージで聞かされると滅茶苦茶怖い所みたいに聞こえてくるな。
「蓮太郎さん」
「ん?」
脈絡もなくスズが僕に抱き着いてきた。
なんとか身体で受け止めた僕は、そのまま椅子に座った朝と全く同じ状態になったいた。
「温かい……」
「変温動物は大変ですね。神様の力でなんとかなったりしないの?」
「そんな便利なものじゃないです」
「ふーん」
そんなもんなのかな。
しばらくそのままスズを抱きしめていたら、いきなり顔に変なものが当たった。
「なに、これ」
「カイロ……教室で変な風に抱き着くのやめてもらっていい?」
僕の顔に当たったものは、どうやら藤原さんが投げつけてきたカイロだったらしい。僕とスズがこうして抱き合っている姿を見て、カイロをくれたらしいんだけど……よくこんな時期にカイロなんて持ってたね。
「はぁ……恥ずかしいから」
「え? あぁ……うん」
確かに、冷静に考えると教室で高校生が思い切り抱きしめ合ってるのって恥ずかしいことなのかもしれないね……ちょっと最近、慣れすぎちゃって僕の感覚がおかしくなっているのかもしない。
「スズ、カイロ貰ったよ」
「嫌です。カイロで温かくなっても私は蓮太郎さんから離れません」
関係なかったわ。
「恥ずかしいからやめろって言ってるのよ! なんで教室で盛ってんのよ!」
「はぁ? 盛ってませんけど? なんですか? 思春期だからなんでもかんでもピンク色に考えちゃうんですか? 藤原さんは頭がピンク色なんですね……可愛らしいこと」
盛ってるとかピンク色とか言ったせいで、僕たちの姿勢が余計にいやらしいものに見えてきたんだけど。女子もちょっと顔を赤らめて視線を逸らしている人もいるし、男子は生唾飲み込んで勝手に妄想してるんですけど。
僕とスズはまだ清らかな関係です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます