第28話 モテる男は違う
秋が深まってくると、学校内が浮足立ってくる。
秋の中間テストが目前に迫っているが、それが終わればすぐに文化祭が挟まり、2年生は修学旅行へと出掛けることになる。この過密スケジュールに体育祭が挟まらないように、梅雨前の時期に持って行っているのかもしれないと思うぐらいには割と忙しい日々が続く。
学校の先生方もイベントが重なるとどうしても疲れた顔をし始めるので、普段は先生の愚痴を言ったりする生徒たちも少し当たりが弱くなっているところあたりが、高校生と中学生の違う所と言えるかもしれない。
「うぅ……寒いです」
「大丈夫?」
最近になって、スズの動きが滅茶苦茶鈍くなってきた。
朝はベッドから絶対に出たがらないし、なんなら寝ている時もずっと僕に抱きついてきたりしているので僕の方は厚着ができない状態になっている。
原因はなんなんだろうかと思っていたのだが……普通に考えればわかることだった。
「蛇は変温動物だからね。この寒さはきつい?」
「が、頑張ればいけます……」
「でも、これからもっと寒くなると思うけど」
「…………」
黙っちゃった。
今日の最高気温はまだ15度前後なので、これからもっと寒くなっていくと思うが……スズは果たして大丈夫なのだろうか。今もマフラーをつけながら僕の腕にしがみついて必死に暖を取っている状態なんだけど、少し前の元気な姿からは想像もできないぐらいの縮こまり方でちょっと……ギャップ萌え、と言って良いのかわからないけど、とにかくそれらしいものが僕の心の中にやってきた。
「あの、少し引っ付きすぎじゃない?」
「あ、藤原さん、おはようございます」
「おはようございます」
「……おはょぅ」
「なんて?」
語尾がどんどんと小さくなっていって、最後はもう音にすらなっていないスズの挨拶に藤原さんは少し驚いた様子を見せていた。まぁ……陰陽庁から厄介な相手を全て押し付けられて胃が痛い思いをしている藤原さんからしたら、仇敵とも言うべき相手がこんな姿になっているなんて想像もできなかっただろうし、仕方が無いと言えば仕方が無いのかな。
「あの……どうかしたの? もしかして体調が悪いとか……その、病院は?」
「いえ、その……蛇ですから」
「え? えーっと……あっ! 寒いから!」
僕の蛇だから、という言葉を聞いて視線を彷徨わせてから……すぐに理解したように頷いていた。
「え? でも、まだ冬眠する時期には早いのでは?」
「冬眠するほどじゃなくても、動きが鈍っちゃうみたいで……特に朝は」
登校中の時刻はどうしても1桁近くになってしまうからこんなことになっているけど、流石に正午になればもう少し自由に動けるようになるはずだ。
夜になると完全に動きが鈍くなってしまうので、我が家は既に暖房がついていたりする。そうしないと家事ができないとスズが主張するので、納得して暖房をつけることにしたのだ。だって、僕が代わりに家事をやろうとすると、動けない代わりに目で訴えてくるのだから。
教室につくと人の多さ故か少しだけ気温が高く、席が窓際に近いこともあってスズも少しずつ調子を取り戻してくる。
「はぁ……温かいです」
「それは……太陽光が? それとも、僕が?」
窓の横の席に座っている僕と、その膝の上に座って僕に抱き着いているスズの姿はクラスメイトから滅茶苦茶注目を浴びているが、スズはそんなこと気にせずにそのままじっとしていた。
クラスメイトのほぼ全員からなにをイチャついてんだみたいな視線を向けられているが、しばらくするとスズがその状態から全く動かないことに困惑した様子を見せている。まぁ……イチャついている訳じゃなくて、少しでも体温を上げようとしているだけだからね。
「ん……」
「へくしっ」
スズが身じろぎするたびに、白く美しい髪が太陽に照らされてキラキラと光り輝いているのだが……僕の鼻付近を移動するのでちょっと痒い気持ちになってきて、くしゃみをした。同時に、抱き着いていたスズがびくっと驚いた様子で身体を弾ませたが……何事もなかったように再び抱き着いてくる。
我ながら……かなりバカップルみたいな格好になっているなと思いながらも、低体温で思考まで鈍くなっているスズをそのまま放置することもできず、僕は手に持っていた本に栞を挟んでからスズの背中に手を回して、心臓の鼓動ぐらいのリズムで背中を叩いてやる。気分は赤子あやす親だな。
「柳、少しいいか?」
「……いい様に見えますか?」
「あー……悪い、また暇な時でいいから連絡くれ」
スズをあやしている僕だが、実際には膝の上に陣取られて動けなくなっているのだ。僕は別にどうしてもスズと一緒にいたい訳ではないのだが……このまま話を聞くこともできないし、移動することもできない。
僕にいきなり話しかけてきたのは黒髪短髪でいかにもスポーツやってますって感じの、身長が高い男子生徒。名前は確か……高木、だったかな?
「連絡って言われても、僕は……高木くん、の連絡先を知らないんだけど」
「誰が高木くんだ。俺は
「あ、木しか合ってなかった」
「はぁ……連絡先なんてクラスグループから確認できるだろ」
「……クラス、グループ」
「ん……あ、悪い。てっきり藤原さんがお前のことを誘ってるもんだと思ってた」
はいはい、どうせ僕は誰にもクラスグループに誘われてませんよ!
「じゃあ連絡先交換してくれ」
「はい」
「……スマホをそうやって無遠慮に渡してくるのか」
「別に、ゲーム以外あんまりないし」
僕のスマホは、基本的に家族と連絡を取る為のものでしかない。ゲームはおまけだし……誰かに見られて困るような銀行口座みたいなものにはちゃんと生体認証のパスワードをかけてある。
ポチポチと慣れた様子で僕のスマホを操作した厚木くんは、すぐに僕にスマホを返してくれた。追加された連絡先のアイコンにはバスケットボールが映っていた。
「バスケ部なの?」
「おう、一応は副キャプテンやってる」
「へー……だから身長高いのか」
「身長高いからバスケ部やってるんだけどな。別にバスケ部入ったから身長高くなった訳じゃないから」
目算だけど、180以上はありそうだしかっこいいよなぁ……やっぱり男でも高身長のスポーツ系爽やかイケメンには憧れるものだ。
「あ、ついでにクラスグループにも招待しておいたからちゃんと入れよ?」
「……モテる男の気遣いは違うな」
「蓮太郎さんはそのままでいいですよ」
スズ……慰めになってるのかな、その言葉は。
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