#4 『図書室の幽霊』の後日談

 翌日、私は夜中の校内に忍び込んでいたことを報告され、生徒指導の先生に、しこたま怒られたのだった。


 挙句の果てには、怪談の真相の記事を新聞に載せるのを禁止されたうえ、図書室荒らしの犯人の疑いまでかけられ、生徒指導室に呼び出されてしまった。


 その容疑を晴らしてくれたのは、なんと真犯人である美城先生だった。図書室を荒らしたのは、自分であると自供したのだ。動機は、大筋において、ユー子が私に語った推理と一致していた。


「私はこの学校の生徒でした。その頃の私はどうしようもない不良で、そのことを人に知られたくなかったんです。だから、その頃の私が写っている卒業アルバムの写真を撮ったと思った生徒のスマホを盗みましたし、アルバムも処分しました。図書室を荒らしたのは、アルバムを処分したことを隠すためです」


 美城先生は責任をとって、学校をやめることになった。


「あの」


 美城先生と二人で生徒指導室から出た後、私は尋ねた。


「なんで、自供したんですか? あのまま私が図書室荒らしの犯人になっていたら、先生には都合が良かったと思うんですけど」


「確かにそうかもしれないけど、私のせいで嫌な思いする生徒は出したくなかったからね……って、生徒のスマホを盗んだ人が言っても説得力ないか」


 美城先生は自嘲気味に笑った。


「ちなみに宮本さんのスマホには、実際に先生の写真が撮られていたんですか?」


 美城先生は、首を横に振りながらいった。


「いいえ。私が知らない子が撮られていたわ。自分を撮られたっていうのは勘違いだったみたい」


 それにしても、と私は思った。


 昔不良だったなんて人は、どこにだっている。別に図書室を荒らしてまでも隠しておきたい秘密だったんだろうか。


 その疑問について、美城先生はこう教えてくれた。


「他人から見たら、大したことないような過去の経歴も、当の本人からしてみれば、絶対に知られたくないものだったりするの。自分の価値観と他人の価値観が同じだと思わないことね」


 私が生徒指導室に呼び出された翌日、『図書室の幽霊』の正体が美城先生だったということが、学校中の話題になった。


 先生が学校を去るのを、惜しむ声もあがった。


 それと、私は宮本さんが卒業アルバムに載っていた写真を撮った理由を本人に尋ねてみた。


「昔の卒業アルバムの写真を撮った理由? てか、よく私が写真撮ったこと知ってるね」


 宮本さんは、撮った写真を私に見せながら、こう告げた。


「これ、私のいとこ。めっちゃスケ番って感じで、面白かったから撮ったんだ」


 こうして私は、『図書室の幽霊』の全貌を知ることとなった。


 全ての真相の確認が終わった日の放課後、私は図書室に行った。


 ユー子に、彼女の仮説が正しかったということを報告するためである。


 まあ、ユー子はずっと図書室にいて、図書室で起きたことは何でも知っているらしいから、もしかしたら、図書室で交わされている生徒同士の会話を聞いて、自分の説が正しかったことをすでに気付いているのかもしれないけれど。


 私は、図書室中を見回し、貸出カウンターにいる図書委員の生徒以外誰もいないことを確認すると、ユー子と出会った本棚の裏に行き、小声で報告を始めた。


 報告を済ませたところで、貸出カウンターにいた図書委員の生徒から、そろそろ図書室を閉めるから帰るようにと促された。


「あの……」


 私が図書委員の生徒との会話を終えると、不意に背後から声が聞こえた。


 振り向くと、そこにはユー子がいた。相変わらず突然現れ、相変わらず古めかしいセーラー服を着ていて、相変わらず半透明だった。


「今日は腰を抜かさないんですね」


「まあね。知らない幽霊じゃないし」


 私の言葉に、ユー子は笑った。つられて私も微笑んだ。


 図書委員の生徒にはユー子が見えていないのか、私のことを怪訝そうに見ている。


「良かったら、また会いに来てくださいね。私はいつもここにいますから」


「うん。近いうちまた会いにくるよ」


「約束ですよ?」


 私たちは指切りした。ユー子の手は、とても冷たかったけれど、どこか温かかった。

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新聞部員、真夜中の図書室で幽霊の推理を聞く 風使いオリリン@風折リンゼ @kazetukai142

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