#3 図書室の幽霊の推理
「いきなりですが、奏は、
そうユー子は切り出した。
「うん」
宮本楓。私のクラスメイトだ。クラス内では比較的目立つ子たちのグループにいる。
そういえば図書室荒らし事件が発覚する前日、スマホの盗難にあっていたな。
「ロック掛けてなかったから、個人情報が流出したかも」とか言って騒いでいたのを覚えている。
その日の五時限目。体育の授業のため、私たちは体育館でバスケットボールをしていた。
この間に、宮本さんの制服のポケットに入っていた彼女の携帯は、何者かに盗み出されたのだった。
クラスの生徒全員が、体育の授業に出ていたというアリバイがあったため、犯人はクラスの生徒ではないことが証明されたうえ、後日に職員室の落し物箱の中から彼女のスマホが発見されたことにより、当の本人がもう気にしないとかで、盗難事件は幕を下ろしたのだった。
「宮本さんはスマホを盗まれたんですね?」
「そうだけど……なんで急に宮本さんが出てくるの?」
今は美城先生がなぜ図書室を荒らしたのかって話をしていたと思うんだけれど。
私はユー子に疑問を投げかけた。
「なんでって……もしかしたら彼女が、図書室荒らしの動機に関係しているかもと考えたからです。彼女のスマホが盗まれていたという話を聞いて、私の仮説が正解に近いモノだと思えてきました」
ユー子はニコっと笑った。その生き生きとした彼女の顔を見ていると、相手が半透明じゃなかったら、幽霊であることを忘れてしまいそうだと私は思った。
「で?宮本さんが図書室荒らしの動機とどう関係してるっていうの?」
私は首を傾げた。いまいち話が見えてこない。
「まあ、順を追って説明しますよ」
ユー子は、一度そこで言葉を区切ってから言った。
「宮本さんは、スマホを取られる直前の昼休みに図書室に来てたんです」
「宮本さんが?」
クラスでの彼女の様子を見る限りでは、昼休みに図書室に行くようなキャラではなかったはずだ。
「そう。友達と一緒に。何だかの調べ学習の為に資料を探しに来たとかだったと思いますよ」
「ああ。多分、総合学習の郷土研究の課題だと思う。何班かに分かれて発表することになってるんだ」
「へえ。まあ、それで宮本さんも図書室で資料を探していたみたいなんですけど、すぐに飽きて関係ない本を物色し始めましてね。その中である本を見た時に驚いた表情をした後に、それを借りようとしていました。でも、その本は持ちだし禁止であることを、貸出カウンターにいた美城先生に指摘されて、渋々元あった場所に戻しに行っていました」
「よく覚えてるね」
「騒がしく動き回っていたので、印象に残ってたんですよ」
宮本さんが大人しくしている姿が想像できないけど、案の定、幽霊の印象に残るくらい騒がしく動き回っていたのか。私はちょっと笑った。
ユー子もつられたように微笑んだが、すぐに真顔に戻る。
「宮本さんが本を持ってきた後、美城先生は宮本さんをじっと見つめていたんです。他の生徒が本の貸し出し手続きに来ると、ハッとして、貸出係の仕事に戻ったんですけど、その間も、宮本さんをチラチラ見ていましたね」
「宮本さんを?」
私は机に乗り出した。
「何で?」
「さあ。ただ、なにかとても焦っているような顔をしてました。……話を宮本さんに戻しますね。宮本さんは、借りられなかったその本のあるページを開くと、スマホを使ってそのページの写真を撮ったんです」
ここまで聞いて、私はユー子に肝心なことを聞いていなかったことに気がついた。
「そういえば、まだ聞いてなかったけど、宮本さんが借りようとしていた本って何だったの」
「この学校の十年くらい前の卒業生の卒業アルバム」
私は考えてみた。宮本さんは、スマホを盗まれる直前に、どういう訳かこの学校の昔の卒業アルバムを借りようとしていた。しかし、それを借りられなかったため、自分が欲しい部分のページを写真に収めた。
そこには、美城先生もいた。美城先生は、宮本さんが持ってきた卒業アルバムを見て、なぜか焦り、宮本さんの行動を気にしていた。宮本さんが卒業アルバムの写真を撮ったところを見ていてもおかしくない。その直後に、宮本さんのスマホが盗まれたとなると……。
「多少、こじつけな気もするけれど、ひょっとして、宮本さんのスマホを盗んだのも、美城先生?」
ユー子は頷いた。
「きっとその卒業アルバムには、美城先生が知られたくない何かが載っていた。それを宮本さんに写真に撮られたと考えたから、宮本さんのスマホを盗んだんだと思います」
「じゃあ、宮本さんのスマホが後日、返って来た理由は?」
「撮られた写真のデータを削除したからか、あるいはそもそも先生が知られたくない何かが写真に撮られていなかったことを知ったからのどちらかじゃないですか?」
宮本さんはスマホにロックを掛けていなかったようだし、中身を確認するのは簡単なことだったのだろう。
「まあ、宮本さんと美城先生が関係するのはわかったけど……」
私は首を傾げながら尋ねた。
「このスマホ盗難事件の真相が、図書室荒らしとどう関係するの?」
「考えられるのは」
ユー子は目を細くした。
「美城先生はこの一件で、自分が知られたくない何かが載っている卒業アルバムが図書室にあるのを知った。先生はこのアルバムをどうにか処分したかったんだと思います。ただ、それだけを処分したのでは、その本に何かあるとバレてしまう可能性があったから、関係ない本を図書室中にばら撒いたり、破いたりしたんだと思いますよ」
ユー子はふぅっと息を吐いた。
「これが図書室の幽霊が考えた『図書室の幽霊』の動機です。よかったらこの推理があっているのか確かめてみてくれませんか」
「確かめなくても、ほとんど間違いなさそうだと思うけど」
「いやいや、この話で確実なのは、図書室を荒らしたのは美城先生であるということだけで、それ以外は最初に言ったように、私の仮説に過ぎませんから。これが正しいか調べられるのは、生きている人間だけですからね」
「わかった。じゃあ明日から調べてみるよ」
なんて、ユー子と話していると突然、図書室のドアが開けられた。慌ててそちらに目を向ける。
「何やってるんだ君は!」
そこには警備員がいた。
さっきやり過ごしたはずなのにまた来るなんて……。
ユー子の方に視線を戻すと、そこにユー子はいなかった。
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