#2 『図書室の幽霊』の正体
「改めて、自己紹介するね。私は一ノ瀬奏。新聞部の二年生。あなたは?」
「あー、残念ながら、自分の名前覚えてないんですよね……。名前だけじゃなくて自分のこと全部なんですけど。まあ、幽霊だし、ユー子とでも呼んでください」
幽霊改めユー子はそう言って微笑んだ。
「『図書室の幽霊』のことは色んな子が噂しているのを聞きますよ。まったく冤罪もいいところです」
「じゃあ、図書室を荒らしたのはユー子じゃないんだね?」
「はい。私はただここにいるだけです。先程も言ったように、私は物に触ることは出来ても、動かせませんから。本をあんな風に散らかすなんて出来ません」
幽霊ってみんな、不思議な力で物を動かして人を驚かすイメージを持っていたけれど、ユー子には無理らしい。幽霊の力にも個人差があるんだろうか。
「ユー子ってずっとここにいるの?」
「ええ。だから図書室で起きたことは何でも知ってますよ。最近は『図書室の幽霊』の噂のせいで騒ぐ生徒も多くて、図書委員の子が注意しているのをよく見ます」
「ちょっと待った。それなら、図書室荒らしの犯人を見たんじゃない?」
「ええ、もちろん」
ユー子は、何でもないことのように答えた。
「ちょっと、それを早く言ってよ。誰なの?」
私は制服のポケットから手帳を取り出した。ユー子が告げた名前を書きとるためである。
ユー子は少し考える素振りをした後、
「ただ教えるのはつまらないので、当ててみてください」と、微笑んだ。
「まあ、ほとんど答えが出ているようなものなので、問題にならない気がしますけど」
「え?」
私が首を傾げると、ユー子は掛け算の九九が分からない大学生を見たかのような表情を浮かべた。
「……本当に分からないんですか?」
「だって、美城先生が見回りで図書室に来たときは、異変は無かったって証言しているし、先生が見回りを終えたあと、事件が発覚まで図書室は密室。図書室に入れそうな人なんていないでしょ?」
ユー子はため息をついた。これ以上は時間の無駄だ、話を勧めてしまおう、という様子である。
「いいですか。美城先生が鍵を掛けてから、事件発覚まで、鍵に触った人間はいない。窓から無理に入った痕跡も無い。図書室は密室だった。じゃあ、考え方を変えてみましょう。仮に密室になる前に、図書室が荒らされていたとしたら? 限りなくクロな人が一人出てくるじゃないですか」
私は、そこまで聞いてようやくユー子が言わんとしていることを理解した。
「つまり、美城先生が図書室荒らしの犯人っていうこと?」
ユー子はやっとわかったのかと言わんばかりの顔で頷いた。
「私は図書室での美城先生しか知らないですけど、彼女って、随分と信頼されてますよね。教師からも、生徒からも。この事件、容疑者に挙がって来るのは、美城先生しかいないのに奏を含めて、この学校の誰もが美城先生の証言を丸々信じ、少しも疑うことはしなかった。いや、日頃の行いって大事ですねー」
軽い調子でそういうと、ユー子は急に真面目な顔つきになり、私にこう告げた。
「でも、犯人は間違いなく美城先生ですよ。私がこの目で見ましたから」
その顔は嘘をついているようには見えなかった。ユー子は言葉を続ける。
「そんな訳で、図書室荒らし、もとい『図書室の幽霊』は美城先生なんですけど、私が気になっていることっていうのは、このことと関係していることなんです」
「どういうこと?」
「私が気になるのは、『図書室の幽霊』はなぜ図書室を荒らしたのかということなんです」
言われてみれば確かに気になることだった。教師や生徒、この学校の誰からも好かれ、信頼されている美城先生がなぜそんな暴挙に出たんだろう。
「そこで、私は自分なりに『図書室の幽霊』が図書室を荒らした理由を考えてみたので、ちょっと聞いてもらっていいですか?」
「もちろん」私は頷いた。
幽霊の推理を聞く機会なんて、人生でそうあることでもないだろうし。
「じゃあ、早速聞かせてよ。『図書室の幽霊』はなぜ図書室を荒らしたの?」
ユー子は頷き、「今から話すのは、私の仮説なんですけど」と前置きしてから、彼女は語り始めた。
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