第2話 かまいたちの恋
窓をがらりと開けた時、爽やかな風が吹き抜けて、下ろしていた髪を後ろへ導く。伝っていた汗も同様に軌道が逸れてぱっと花開くように喜んで弾けた。午前五時のことである。夏とは思えないほどの爽やかさに面食らいながらも目を閉じてゆったりと身を任せる。アゲハ蝶が一羽二羽と舞ってハート型の四葉のクローバーの一片が風に巻かれくるくると回っているのが見えた気がした。旋風の中のかまいたちがクローバーに恋をして、物欲しそうに見上げている。 涙が零れ落ちて、鋭く美しい鎌の上を濡らしながら先まで滑って風の中へ。恋焦がれた結晶ともいえる涙は乾いてしまって、残ったのは涙に混じった少しの血の跡。どうしようもなく鎌を振り回して、周囲の草が根元から切られふわりと浮いてかまいたちを中心に円を描く。
そんな風景が見えた気がして目を開けた。目を閉じながらもどこかの景色を見ようと力んでいたせいで瞳が涙でしめって痛い。咎められたような共感するような苦しく切ない気持ちを真珠にしたようなあの涙の玉は、忘れられない蓮の葉に溜まった朝露の艶。
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