物語とも詩ともいえない私設世界

第1話 頭蓋骨のどじょう

 クーラーの温度を下げ、毛布を首元まで上げる。きらりと光るネイルがぼんやりと眠りかけていた意識に冷水をかけて連れていく。ふらふと起き上がり床に足を付け黒いテーブルまで歩を進める。その上にある爪切りを左手に持って、一際長い小指の爪を根元から切った。同じく黒い棚の小さな引き出しの中から真珠の玉を摘んでベランダから落とそうとしたところで左手首にどじょうが巻き付く。骨の軋む音が響いて目覚まし時計の音と重なり頭蓋骨にハンマーで殴るような衝撃を与えられた。目は完全に覚めたようだがマットレスまで浸水していて爪切りが爪と一緒にふわふわ浮いていた。

 ばしゃばしゃ左手で水面を叩く。風鈴の音が季節外れにも関わらずちりんちりんと鳴っていた。その音に合わせて右手の爪でテーブルをつつき早くさめろと頬杖を付いてみた。いるかが窓の外でターンを決めて深海に向けて泳いだ時に私は浮いて目が覚めた。朝の5時で、初夏を感じさせるぬるい涼しさが肌をなめる。さっぱりとしたとろみのある風が髪を部屋の中に向けて運ぶ。アラームの音をさざなみにした結果がこれなのか。しばらくは変えないことにした。これから夏が来る。

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