第13話 新機能解放が解放されました

 そこからは地図を片手にクロバナさんと地下水路を歩いて、必要なルートを確認した。

 

 道すがらにいるポイズントードを新武装ライトブレードやハンドガンで倒してパークポイントを取得するのも忘れない。

 

 色々とパークを取得したからポイントの回収が必要なのだ。 

 

 『ハンドガン1』『ナイフ1』『片手ブレード1』、あと面白そうなパークを幾つか取得し、準備を整える。

 

 クロバナさんは何も言わずに俺についてくる。

 

 何か聞こうとすることもなく、機嫌が良さそうで、どことなく楽しそうに見えた。

 

『サイバーランナー』

※実績解除


 クロバナ邸に戻り、リビングで前準備としてパークを幾つか取得したとき、突然実績の解除が表示された。


「サイバーランナー……確か、パーク取得数が一定に達すると解除される奴か」


 この実績が出たということは、俺もとうとう初心者の冒険者から、パークの解放数的には手馴れた冒険者くらいになった証拠である。

 

『カンパニーの使用が認められます』

※新システム解除


「システム解除? もしかして」


 慌ててステータス画面を開くと、カンパニータブが増えている。


 これは確か「ナイトブレードライダー4099 2」から導入された一つで、主人公をリーダーとして、好きなキャラクターを引き入れて組織を構築して行ける新システムだ。


 俺は発売日に異世界転移してしまったので、ゲームで体験はしていないが、まさか異世界で新システムを体験できるとは、何とも不思議な気分である。


『カンパニー名を入力してください』


「名前か……」


 昔から名前を付けるのって苦手なんだよな。


 主人公の名前やパーティーの名前、ペットの名前……これまで適当に付けてきた黒歴史が俺の脳内を駆け巡り、地面に手を突く。


「なにしてるのデンジ?」


「いや、過去の俺に叩きのめされてる」


「ふーん? まあ元気だしなよ」


 何気なく肩に手を置かれて、俺はクロバナさんを見上げる。


 彼女の服装は普段だろうが寝間着だろうが、頭の先から足の先まで真っ黒だ。髪の色も闇夜のように黒いので、まさに黒の魔女の名に恥じない。


「ちなみにクロバナさんって、黒好きなの?」


「どうだろ、初めて聞かれた。黒の魔女で、全身が黒なら誰も聞かないから」


「そらそうだ」


「いつも傍にいる色だから気にしたことないけど、嫌いじゃないかな」


 古びた椅子の柄を触りながら、クロバナさんは話を微笑む。


「黒はどんな色も塗り潰すし、色が重なれば重なるほど全ては黒になる。

 最後に辿り着くのは全て黒。

 嘘も本当も、正義も悪も全ては黒の前に平等で、二極性はなく一極としてそこにある。神も人も悪魔ですら平等に手を差し伸べてくれないのに、

 黒だけは平等に傍らにある。幾ら時が経過しようが、劣化することもない平等性。だから嫌いじゃない」


 彼女は好きとは言わなかったが、嫌いじゃないといった。


「黒、クロ――時……クロノ・クロノス……か、うん、悪くない」


 思いついたが吉日、すぐにクロノ・クロノスとカンパニー名を入力する。


『カンパニー名を確認しました。カンパニー作成おめでとうございます。これからはシティのためにいち企業として貢献してください』


 システムがゲーム内のお決まりの台詞を放ち、新たな実績が解除される。


『新企業の誕生』

※実績解除


「クロバナさん、もし良ければでいいんだけど、俺の企業――組織に入らない?」


「組織?」


 いぶかしげな眼で俺を見やる。


「出入り自由だけど、今回のミッションの成功確率を高めるためにね」

「ふーん、いいよ」


 もう少し怪しんだ方が良いと思うが、クロバナさんは気にせず、俺に向かい合った。


「もう少し聞かれるかと思ったよ」


「デンジは召喚英雄としてこの世界に来たんでしょ。でも他の召喚英雄みたいに『国』の為じゃなくて、声を上げられない『誰か』の為に手を差し出そうとしてるでしょ。だからいーよ」


 ぐふふと含み笑いするその顔が、まるで魔女そのものだ。


 その笑い方が何だかくすぐったくて俺は、背中を見せてクロバナ邸のキッチンへと向かう。


「それでどうすればいい? 血の契約書とか? 古いけど血液を交換で飲ませるやつ?」


「魔女の基準を持ち込まんでくれ」


 俺は再び鍋に向かってカンパニー専用アクセサリーをクリエイトする。


「はい、これを装備すれば完了」


 鈍色に輝く懐中時計が俺の企業(この世界では組織扱いだが)のアクセサリーだ。表面は針が時を刻み、裏面は月の満ち欠けを時間として表現したシンボルマークが刻まれている。


 専用アクセサリーの形状は何でもいいのだが、時計とは実にレトロでカンパニー名にもあっていて、自分的に満足度は高い。


 ほくほくとしたテンションで、俺はクロバナさんの首へネックレスの様にかけてみた。


「あ、ありがと――!」


 クロバナさんはまるで秋の紅葉のように頬を染め、そっぽを向いてしまった。


「もしかして、これ首からかけるわけじゃないのか……」


 チェーンだから勘違いしていたが、そういえば首から懐中時計をかけている人は少ないような気がする。なんかみんなポケットから出してた気がするしな……?


 一人で考え込んでいると、クロバナさんはまじまじと懐中時計を見ていた。


 渡し方は間違ったが、嫌がられてはいないようで良かった。



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🌸次回:第14話 自由度が高いシステム↓

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