第11話 私にいい考えがある
イライラが収まらないのか、クロバナさんは乱暴に椅子に腰を下ろしたかと思うと、クッキーを両手で
「クロバナさん。余計な詮索かもしれないけど……もしかして妹さんって、人質にされてる?」
荒れ狂うクロバナさんへ、俺は静かに話を切り出す。
クッキーへ伸ばす手が止まり――彼女は目を伏せ、胸に手を当てて口を開いた。
「人質、そうだね、人質だね」
投げやり気味の口調に心の奥がチクリと痛む。
「そもそも"色付きの魔女"は特定の国に手を貸さないのが普通。
皆、自分の研究で忙しいから。
けど妹のアオが魔剣の影響を受けて……半魔族化して……」
「でも妹さんも色付きの魔女じゃないのか?
だったら瘴気吸収スキルがあるんじゃ」
「ううん、あの子は魔女じゃない。
だから瘴気に飲まれた」
「そうだったのか……」
「王都セブンスは世界で聖剣所有者が最も多い都市。
私はこの国にある半魔族化を抑える聖剣の力を耳にして王都に移住したの。
アオの浸食を抑えてもらっている代わりに、私は表のギルドには貼りだせない任務を受けなきゃいけない、これがその契約」
クロバナさんの首筋には王都の紋章である羽の生えたライオンが浮かびあがった。
「けど、デンジ、貴方の方が不思議」
襟首を整えながら、クロバナは俺を見つめる。
「デンジは呪いの影響を受けていない。単純な呪いじゃない魔剣の影響を。それに魔剣の瘴気すら無効化してた、それは何故?」
「何故って……そんなパーク取得した覚えもないし、俺自身もただの人間だしな」
「もしかしたらデンジに半魔族化を解く鍵が――ううん、今考えても分からない。なら、やるべきことをやるしかない。
あいつの目玉を抉りだしたいほど、言うこと聞くのは嫌だけど」
力なく笑うクロバナさんを見て、俺は現実世界にいた頃の自分を思い出した。
次々と会社を辞めていった同僚。
鏡に映る俺自身。
言い聞かせていた台詞。
他人の仕事を押し付けられて、成果だけをもぎ取られる日々。
何年働いても給料は上がらず、役職も変わらず。
ただただ便利な雑用係として使われる。
転職しようにもそんな時間もなく、ギリギリの生活をして、スキルを高める暇すら持てない俺たちをすぐに雇ってくれるような会社もない。
そんな時に出る"自身を納得させるためだけの無意味な笑顔"は、俺の近くで誰にもしてほしくない。
俺には手を差し伸べてくれる人がいなかった。
だから差し出された手が見えるなら、俺が手を掴みたい。
「クロバナさん、もし良ければ俺に考えがあるんだ」
そう言って俺は、クロバナさんに精一杯の笑みを返すのだった。
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…
🌸次回:第12話 切り拓く者↓
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…
――――――――――――――――――――――
読んでいただき、本当にありがとうございます!
★(レビュー)やフォローが執筆の大きな力になります。
感じた気持ちを気軽に教えてもらえたら、とっても嬉しいです!
――――――――――――――――――――――
◆ アプリの場合
「目次」タブの隣にある「レビュー」をタップ→「+★★★」
◆ ブラウザ(スマホ)の場合
「目次」を一番下までスクロール→「+★★★」
◆ PCの場合
あらすじページを一番下までスクロール→「+★★★」
※または最新話の最下部の「+★★★」ボタン
――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます