第9話 モブおじさんは装備を新調する
「おお、結構豪華なお屋敷だね」
ここでクロバナ邸を簡単に説明しよう。
立地は王都セブンスの端にある『魔女の森』にぽつんと存在する洋館だ。
簡単に人が入り込めぬ迷いの魔法がかけられた森にある3階建ての建物である。
庭には庭園や農園の跡が見える。
屋敷内はドローンが全身全霊で働いたおかげでゴミがないうえに、はがれた壁紙なども修復されている。流石、パーク『社会奉仕活動』、なんと優秀なドローンか。
家具などは格式が高そうだが、ほとんど使われていなかったようだ。
「また家には入れるなんて思わなかったよお」
「人生でそんな台詞を使うタイミングあるか?」
俺とクロバナさんはリビングらしきところで、数年ぶりに使われる椅子に座りながら、向かい合った。
「クエスト達成なんだけど、報酬は現金でいいかな?」
「それなんだけどお願いがあるんだ。報酬はこの素材たちを少し欲しんだけどどうだろう」
「え、そんなもので良いの?」
不思議な中年の生き物を見るような眼で、クロバナさんはきょとんとした顔をする。
「もし貰い過ぎてたら言ってくれ」
「ううん、全部持って行ってもいいけど何に使うの?
色付きの魔女以外の職業は、生産スキルにも使用できないと思うけど」
「ありがとう、でもこれが俺にとっては宝の山だから」
そういってパークのメニュー画面を開く。
「この世界の武具って全て職業専用装備だったとはね。
剣士は剣士専用、魔法使いは魔法使い専用の武具しか装備できないとは知らなったよ」
目星をつけていた生産系パークを次々とタップしていく。
「無職に設定されている俺は、何も装備できないから自分で作り出すしかない」
:武器開発 解放
┗:ライトブレード作成
┗:ライトナイフ作成
┗:銃作成
:洋服開発 解放
┗:洋服作成
┗:コート作成
:靴開発 解放
┗:靴作成
「こんなもんか」
「それで何か作れるの?」
知らぬ間に紅茶を飲んでいたクロバナさんは俺を不思議そうに見る。
「いつまでもこの格好じゃ目立ちすぎるからね」
スーツ姿のままじゃ異世界は過ごしにくい。
俺は気にしなくても人目に付きすぎる。
「異世界の服はかっこいいと思うけどねえ」
クロバナさんは興味があるのかないのか、自分だけクッキーを取り出しては、適当な感じで返事する。
「それに武器も作成しないとね、拳で触れないモンスターはやり合いたくないし」
「確かに猛毒を持つポイズンドラゴンとか、麻痺毒を持つパラライズグリフォンは、素手で触るのはドM行為だよねえ」
「じゃキッチン借りるね」
「うん――って、どしてキッチン?」
予想外の言葉だったのか、クロバナさんは
「これは俺も不思議なんだが、鍋があると大体クリエイトできるんだよな」
最近のオープンワールドゲームは武器と食事を作る場所が分けられているが、プレイヤーの利便性を考慮して、すべて同じ場所で作れる作品も存在する。
そしてバグだらけのオープンワールドゲームのシステムに飲み込まれている俺は、きっと。
「やっぱできたわ……」
キッチンに立ち、メニュー画面内で作りたい洋服をタップすると、淡い光が鍋の中で放たれ、新たな洋服が鍋底に生まれていた。
「ゲームと同じで作ってるフリすらないから、なんとシュールな光景か……」
色付きの魔女しか使えない素材たちはガラクタ分解パークにより、「ナイトブレードライダー4099」に登場する、近未来にありそうな素材へと変換されたので、俺でも作成素材として使用できるってわけだ。
「へえ、デンジ、錬金術師みたい」
感心するクロバナさんの横で次々と洋服を作り出し、戦闘用の武器も生成する。
それで完成したのが、この装備だった。
◆ユウギデンジ 防具
◇頭部:安全ゴーグル(※自動アナライズ付与)
◇体 :防刃ジャケット(※斬属性耐性+)
◇手 :革の指ぬきグローブ(※クリティカル+)
◇脚 :漆黒ズボン(※素早さ+)
◇足 :安全ブーツ(※デバフ耐性+)
◇上部:カーキ色のロングコート(※アストラル属性耐性+)
「全身サイバーパンク仕様でまとまっちゃったけど、ロングコートで、何とかファンタジー世界にいても大丈夫……な格好だよな」
◆ユウギデンジ 武器
◇腰 :ライトブレード
◇太腿(右):ハンドガン
◇太腿(左):ライトナイフ
ナイフとブレードは刀身が無く、引き抜くとブォンという音と共に、青緑の刀身を生み出すロマン溢れる武器だ。
「良い……異世界に来て、俺は今一番テンションが上がっているかもしれん」
後で忘れずに「ハンドガン1」「ナイフ1」「片手ブレード1」を取得しないと、本領を発揮しないので忘れずに取得しないといけない。
「変な刀身だね、魔法でもないし、特殊鉱石でもない、まるで聖剣使いの聖剣」
「聖剣使い?」
俺の質問にクロバナさんは苦虫を噛み潰したような顔になり、乱暴にクッキーを噛みちぎった。
「胸糞悪い"王の犬"って感じかな、裏ギルドに出入りしていれば嫌でもすぐに――」
その時、ゴンゴンと強く扉が叩かれる音がした。
クロバナさんは「はあ」とワザとらしく大きなため息をついて立ち上がる。
「――会うことになるよ」
そこには既に16歳の少女の声質と顔はなく、黒の魔女が顔を覗かせていた。
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🌸次回:第10話 聖剣使いの副団長↓
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