王都セブンス編

人造魔剣の章

第8話 いつか使うかもしれない、それが罠です。

「何でそんなにテンション低いの、ほら上げてこーよ、デンジ」


 俺は外で山のように積み上がるゴミを黙々と視線に入れては『ガラクタ分解1』で、素材に変換してアイテムボックスに自動で放り込んでいく。


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パークポイント:00.1入手

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 難易度の高い素材が多いのか地味にポイントが入手できる。


「この黒の魔女がこれからもパーティー組んであげるんだから喜びなよ。私と組みたい人なんて、大勢いるんだから」


「昔は、だろ」


 あまりにもゴミが多すぎて、ガラクタ分解1だけでは追いつきそうにない。貴重なパークポイントを振って強化することも考えたが、ゴミに屈したようで悔しい気がする。


「で、でもデンジは組んでくれるもんね?」

「その木の枝から降りて、ゴミ屋敷を何とかするのを手伝ってくれればね」


 あの時、裏ギルドで受付嬢が『や・め・と・け』と首を振っていた理由が今さっき分かったところだ。てっきり黒の魔女の高すぎる能力故に恐れられているのかと思っていたが、実際は違う。


 魔法以外、何もできないからだ。


 ゴミ捨て、料理、買物、理性のあるお金の使い方、洗濯、掃除、その他一般人が持ち得るものを全て犠牲にして、黒魔術のセンスだけ高い。それがクロバナさんである。


 その結果がこのクエスト『クロバナ家のゴミ掃除』だったわけだ。


「定期的にこのクエスト配信してるんだけど、ちょーっと噂話が独り歩きして、とうとう誰も受けてくれなくなったんだよ、成功したこともないし」

「何をどうしたら、家には入れないくらいゴミで溢れるんだ」


 俺が今、掃除しているのはクロバナ邸の庭だと思う。思うというのは、ゴミが多すぎて家の場所もまだ分からないからだ。


「レベル1のデンジくんにはゴミに見えるかあ」


 ふふんと得意げに鼻を鳴らしながら、俺を馬鹿にしたような眼で見る。

 木の上で見下ろしてないで、早く降りて手伝え。


「このモノたちはね、世界各国、色々なところから集められた魔法素材やら、いわくつきの得体のしれない本やら、訳の分からない動物の骨なの、あとあっちのソファーは跳ねて壊れたやつ」

「ほんまもんのゴミじゃねーか」

「これらがすべて新しい魔法や魔道具の素材になるんだから……いつか使うかもって思うでしょ」

「掃除が出来ない方はみんなそれを言います」


 ふむっと頬を膨らませて反論しようとするも、クロバナさんは言い返せずに「くっ」と、下唇を噛んだ。


「あー、ゴミに屈したとしてもパーク取るか、効率重視にしよう。

 これじゃ世界が終わる方が先だ」


 俺はステータス画面を開いて、ガラクタ分解とドローンから派生するパーク、『社会奉仕活動』を取得する。


:社会奉仕活動(※使用者を中心にガラクタを自動分解)


「よし行ってこい、ドローンたちよ!」


 俺の掛け声で現れたサポート用ドローンは10機ほど。


 彼らは各々『ガラクタ分解』能力を搭載していて、きゅいいいんやら、ががががっやら、とても異世界では聞けないマンション建設現場のような騒音を出しながら、先ほどの10倍以上のスピードでガラクタを片付けていく。


 実に気持ちが良い爽快感がある。

 そのガラクタは素材として変換され、高速で俺の素材アイテムボックスへと放り込まれていった。


「ふう、俺も休憩しよう」

「便利な召喚魔法が使えるんだ、どこで覚えたの、見たことない系統。鑑定スキルでも見破れない」

「召喚された英雄だから……かな? 何で使えるか俺もよく分かってない」


 クロバナさんには約束通り、俺の素性やパークを説明したが、オープンワールドゲームの概念が伝わらず、『なんか事が色々できる便利なオッサン』と雑な認識をされた。


「ほい、デンジ、おやつ」

「ありがと」


 腰を下ろしながら受け取ったのは、串で刺されているトカゲの丸焼きだった。


「クロバナさん、これは……?」

「主食だよ、栄養抜群、日持ちもする、歯ごたえがあって食べやすい、そしてどこにでも生息してる」

「これの調理は……?」

「色付きの魔女である黒の魔女お手製のお弁当が食べられるなんて、キミは幸せ者だね」

「俺の知っている弁当の概念じゃない……」


 先にむしゃむしゃと繊維を嚙みちぎっているクロバナさんはワイルドだが、それでも可愛く見える容姿はズルいものだ。


 しかし異世界は日本人の俺に合う食材は少ないと思い、パーク『悪食』を初期に取得していたのは正解だった。


 恐る恐る串に刺された丸焼きのトカゲを噛みちぎる。

 異様に繊維があり、コリコリとした食感だ。


「お、鶏肉みたいな味だ、結構いける」

「デンジ分かるの! うわー、初めてだな、分かってくれる人、嬉しい!」

「うん、旨い」


 サバイバルを心配して取得していたが、まさか少女の手作り料理で本領を発揮するとは思いもしなかった。


「食が合う人がいると嬉しくなるよねえ。次はカエルの串焼きと、コカトリスの串焼きを持ってくる、デンジならきっと気に入る!」


 裏ギルドで初登場時の強キャラの面影は何処へやら、まるで初めて友達ができた女学生のようなテンションである。あと串焼きしかレパートリーないの何とかならないでしょうか。


 そこから半日程が経過した夕方ごろ。

 ドローンたちの懸命の作業もあって、クロバナ邸にあったゴミは綺麗さっぱり消えた。


「うわあああ、ありがとうデンジ、6年ぶりの我が家だよお」

「絶妙にリアルな数字だな……」


 クロバナさんは瞳に涙を浮かべながら、年相応の少女のように家の中へと駆け出して行った。


 あまりにもゴミ屋敷だったのでどうしようかと思ったけど、あんなに喜んでくれたのなら、この苦労も報われた……かな?


◆【リサイクルの英雄】

※実績が解除されました。




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🌸次回:第9話 モブおじさんは装備を新調する↓

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