第6話 英雄の影

「そういえばオジサンはなんで瘴気で無事なの?

 普通の人間は一瞬で魔族化しちゃう代物なのに、ああ、もう訳わかんない!」

 

 登場時の落ち着いた雰囲気は何処に消えたのか、真黒な帽子のまま頭を抱えて座り込む。


「え、これってみんな影響ないんじゃないの? 

 クロバナさんも大丈夫そうだし……」

「私は良いの!

 色付きの魔女は《周囲瘴気吸収》と《魔力変換》スキルを有してるんだから」

「なんか強そうだね」


 瘴気を吸収できるとか、もしかしたら高レベルスキルなんじゃないのか。

 しかもそれを魔力変換できるなんて、色付きの魔女っていうのは随分強そうだ。


「当たり前でしょ、万物に畏怖いふを与える色付きの魔女なんだから!

 とにかく下がって、魔剣の生存戦略が来る!」


 クロバナさんの声には余裕がない。 

 つられて魔剣を見ると、瘴気がもうもうと立ち込め、その煙の中から全身鎧フルプレートを身にまとった屈強な剣士の幻影が生まれていた。


「あ、あれは?」

「ファブニルは過去の持ち主の魂を召喚できるの!」

「な、なんか狙いを定めて、構えてるんだけど?」


 黒鎧は腰をしっかりと落として、幻影魔剣ファブニルを腰の脇に据える――。


「へえ、魔剣って色々できるんだねえ」

「なに呑気な事ばっかり言ってるの、早く隠れて!」


 クロバナさん黒鎧の動きを止めるために、次々と魔法を放つ。

 しかし黒鎧は動じることなく――一振り。

 剣戟は縦に天井から地面を切り裂き、鉱山そのものを揺らす。


「やっぱり元魔剣使いの英雄は影でも半端ないじゃない!

 けど――本調子じゃなくても黒の魔女を舐めないでよ!!」


 クロバナさんがにやりと笑いながら両手を地面につく。

 すると彼女のイメージが投影されたような漆黒の光の線が地面を走り、巨大な魔方陣が描かれる。


『シャドウ・ヘルハウンド・ヴァイト』×『シャドウ・ヘルハウンド・ヴァイト』


 デュアルスペルで生まれたライオンのような二体の巨獣は、巨大なあぎとで、幻影へ腕と喉元に飛びつく。


 行けるか――!

 駄目だ、黒鎧から押し返すように瘴気が放たれている!


 瘴気に呼び出されるように2体、3体、4体と、過去の魔剣の所有者たちが次々と顕現けんげんしていく。


「クロバナさん、ダメだ下がって!」


 彼女はどうやら本来の力を出し切れていないようだ。

 黒い鎧を着た幻影たちが次々と増えていく。

 

 過去に何体契約したか分からないけど、

 一撃が即死級の敵なら、クロバナさんは撤退したほうがいい!


「逃げるなら一人で逃げて!

 私は――魔剣を前にして、あの子の為にも絶対に逃げられないんだから!」


 幻影たちは一斉に魔剣を構え、クロバナさんへと狙いを定める。

 ――大きな一撃が来る。


「制御できるか分からないけど――」


 指をくわえながらクロバナさんは苦々しい顔をする。

 首筋のネックレスに手をかけ、引きちぎろうと指をかける。

 

 そんな決死な顔を、俺は見たくなかった。


「――待ってくれ、俺が、やる」


 代償のある何かをしようとしている。

 けどそれはやらせちゃいけない。


 無職レベル1、スキルなしのオッサンに、クロバナさんはパーティーを組んでくれた。猫にご飯をあげたくらいの些細なことなのに。


 裏ギルドの事も教えてくれたし、クエスト場所まで案内してくれた。

 しかも死なないように帰れとまで言ってくれたんだ。


 現実世界では、オッサンに対して、絶対にそんなことは起こりえない。

 誰もがオッサンに無関心で、邪魔者扱いされて、余計なもの扱いで、人の意識の外にいる存在。


 そんな俺を認識してくれた。


「礼は返させてもらう――!」


 クロバナさんが魔剣ファブニルの相手をしてくれたから、必要なパークの目星はついた。


「無職のレベル1をあなどるな――!」




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🌸次回:第7話 世界を黄金色に染める↓

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