第5話 最凶の一振り

 転移前ならば言われるがままに待機していたかもしれないが、今は異世界で無職レベル1のオッサン。


 失うモノは何もないどころか、自由気ままな一人旅(一人暮らし?)だ。

 オープンワールドゲームを好む者として、クエストで言われるがままに待つ気は毛頭もうとうない。


「この障壁なら拳法1のままでも、うらぁ!」


 障壁は低レベル者を足止めする程度のようで、ガラスが砕け散るように霧散する。


◆【初めてのダンジョン】

※実績が解除されました。


 ダンジョンの中は陽が入らないせいか、冷気が漂い、土の匂いが充満している。

 想像通りではあるが、黒い瘴気が所々に溜まっているせいか、初心者向けダンジョンの雰囲気はない。


「スライムとかいるかな……?」


 奥に入れば真っ暗だろうから、光源を灯すパークは必要かもしれない。

 そんなとき、捨てられたつるはしの周辺にゼリーのような生き物が跳ねた。


「お、いたいた」


 この世界のスライムは液体というより、固まったゼリーのようで丸みがある。

 だがスライムの枠線はグレーを示しているので、先ほど手合わせしたバッカスよりも強敵だろう。


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■ステータス

□名前   :鉱山スライム

□レベル  :50

□職業   :魔法生物科スライム属

□ステータス:体力100、力100、魔力100、器用50、素早さ80、運60

□保有スキル:強粘液(※ターゲットへ力80%分の継続追加ダメージを与える)

□状態   :魔瘴気強化バフ(※魔法生物科は全ステータスを30%上昇)

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 継続追加ダメージの割合が半端ないんだが。

 これバッカスさん、触れただけで溶けちゃうんじゃないの……?


 クロバナさんが言うようにレベル50ダンジョンでは初心者用スライムも異様に強化されている。


「けど、枠線がグレーなら俺とほぼ同格か」

 

 スライムは俺を発見し、ぴぎゅと何処からか声を漏らす。

 どうやら戦闘態勢に入ったようだ。


「だが俺にはバッカスさんを倒した時に取得したパークポイントで、新たなパークを開放した。

 それは――」


 足元に落ちている小石を拾い、トルネード投法のように大きく振りかぶる。

 高校時代は剣道部だったが、子供の頃に見た投手の見様見真似みようみまねだ。

 そして力任せにスライムへと投石する。


「とうせき、レベル1だああああああ!」


:投石レベル1(※落ちている石を投げる際に攻撃力+)


 石が風をごうごうと鳴らしながら、スライムに触れた瞬間。

 砲弾でも着弾したようにスライムは爆発霧散した。


 えぐい。


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パークポイント:50入手

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 けどパークポイントが幾らか獲得できたので、レベル50に見合う経験値を有していたのだろう。

 次の経験値が無限の俺は経験値を入手できないが、パークポイントを取得できるのはとてもありがたい。


 すぐにメニュー画面を開いて、パークタブを確認する。


「まずは『ドローン1』を取得して更に2へ強化、これで自動ライトが発動して周囲を照らしてくれるはずだ」


:ドローン1取得(※自動追跡し、レベルに応じてサポート効果を発揮)

:ドローン2取得(※自動ライト、自動エネミー発見の能力を追加)


 ドローンを発動すると何処からともなく飛行ドローンが召喚され、俺の周囲の暗闇を払ってくれた。


 ドローンの光を頼りに鉱山スライムを木っ端微塵にしながら奥に進む。

 鉱山スライムのレベルが高いので、パークポイントが大量入手できて、楽しくてクセになってくる。


「あとでパークを見直して、色々試してみたいなぁ」

 

 高レベルダンジョンでのレベル上げって、ハマるとずっと繰り返しちゃうんだよなあ。


 さいわいなことにダンジョンの構造は初心者向けから変わっていないようで、これならクロバナさんにすぐ追いつけそうだ。


「お、あの扉がボス部屋っぽいな」


 かんぬき付きの木製の扉が若干空いている。

 クロバナさんが先に突入したからだろう。


 しかし、ボス部屋前の瘴気は尋常じゃない。

 黒い霧によって視界が遮られそうになる感じだ。


 この瘴気、人体に異常はないんだよな……?

 俺、大丈夫そうだし……。


「よし、行くぞ」


 ここまで怪我もなく進んでこれたが、ボスの部屋はやっぱり緊張する。

 この先にはダンジョンの適正レベルを50に引き上げた原因があるはずなのだ。


 ――ギィィィ。


 扉の先の空洞は思ったより広い。

 すでに発掘が終わった後のようで、捨てられたつるはしや倒れたトロッコが目につく。


「瘴気の中心は――あの剣か?」


 空洞の中央に刺さっているのは一本の禍々しい両手剣だった。

 悪魔が作り出したような装飾で、どんなものも叩き潰すような意思を感じ取れる。


「あれは魔剣ファブニル。

 それより、何で追ってきたの?」


 これまでの明るい声はなく、本来の魔女が発するであろう鋭い口調が飛んでくる。


「手伝えるかなあ……と」


 ここで逃げかえっては裏ギルドのクエストすら紹介してもらえないだろう。

 ならば俺は自分の意思で前に進むしか道はない。


「無職のレベル1に出来ることはない。

 もぉー! これ以上は自己責任!」


 魔法使いと言えば杖を持つと思うが、クロバナさんは何も手に持たない。

 左手に魔力を集め、呪文のようなモノも唱えずに、魔法名のみで放つ。


『シャドウ・クロウ!』


 すると黒い魔力がネコ科の獣爪を作り出し、魔剣を切り裂く。


「やっぱり駄目!」


 分かったていたように次の魔法の為に魔力を両手に集めていく。

 空気中にある黒い瘴気すらも集まりだして、魔法初心者の俺でも分かるほどの濃縮された魔力が誕生した。


『シャドウ・ブレイド!』×『シャドウ・ブレイド!』


 クロバナさんは一人なのに、呪文が重なったように聞こえる。


 初期パークで取得した鑑定1によると『デュアルスペル』というスキルが発動して、魔法を同時に発動できる高等技術らしい。


 ファンタジーっぽくて、かっこいい!

 俺も魔法が使えたら覚えたいスキルだが、近未来をテーマにしたパークしか取得できない俺にははかない夢かもしれない。


「はあああ!」


 巨大な大剣が縦と横に生まれ、十字のように魔剣ファブニルを捉える。

 轟音が鉱山に響き渡る――。


 土煙の中、魔剣ファブニルは全くの無傷でその場から動くことはない。


「くっ――私も本来の力があれば――あああ!もう!

 なんて頑丈なの!」

「あの剣がダンジョンをおかしくしてる原因なんだ?」


 あまりにものんびりした俺の口調に、クロバナさんは苛立ちながらも丁寧に説明してくれる。


「魔力という概念に強制的に影響を与えられるのが魔剣。

 ファブニルはその中でも最悪の一本。

 周囲の魔力を吸い上げて、一帯そのものを魔境化してしまう一振り。

 放置するとドラゴンレベルの化け物が生まれるんだから」


「ははん、だからダンジョン内の敵が強かったのか」


 俺の言葉を聞いて彼女は怪訝けげんな声を上げる。


「はあ? 強かったで済むはずないでしょ!

 レベル50相当だけど、魔境化してるから能力自体はさらに上!」


 まじか、俺、そんな奴らを粉微塵にしてきたのかよ。

 そりゃパークポイントも大量に入手できるはずだ。


「……なるほどね」


 おかげで攻略の目処が立ちそうだ。

 大量のパークポイントの投入先を思い浮かび、自然と口元は笑っていた。



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🌸次回:第6話 英雄の影↓

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