第18話 フラシ開幕! おナミー!!
来るフラシ当日、僕はビッグママン率いる四人家族に連れられ、姫路のカドショにやって来ていた。
独特な緊張感が店内に漂うなか、開始の合図がなされる。
初戦の相手は黒モリアだ。
ヤマトと同期のモリアは、『大噴火』の禁止を経てなお、依然強力なリーダーだった。
除去と展開を同時にこなしつつ、8モリアや墓地のペローナ、ホグバックでリソースゲームに持ち込む。
典型的なコントロールデッキだ。
だが、キャラを一体ずつ処理する都合上、多面展開に弱い。
最速オームホーリーが成功すれば、どちらか一体が除去されたとしても、片方が生き残る。
100年前からの常識だ。キャラが残るヤマトは強い。
手札次第では二体生き残ってしまうこともあり、そうなるとほぼ勝ち進行だ。
モリア対面、世間的にはヤマト不利とする声が多い。
しかし僕の体感、八割近い勝率を上げることができていた。
豪語するのだから当然初戦は勝利し、次戦の連続黒モリアも難なく突破することができた。
続く第三戦、ここが一つのターニングポイントだった。
姫路勢のなかではかなり有名な、与謝野晶子さんとマッチアップしてしまったのだ。
与謝野さんがなぜ有名なのかは、使用しているデッキを聞けば理由がわかるだろう。
青ナミ。
与謝野さんは生粋の青ナミ使いだったのだ。
青ナミが持つ唯一無二の特性は、他のリーダーと勝利条件が違うことにある。
一度原文ままに読んでみよう。
『ルール上、自分のデッキが0枚になった場合、自分は敗北する代わりに勝利する』
意味がわからない。
詳しく解説すると。
普通のリーダーは総じて、『相手のライフをゼロにした状態でアタックが成功すれば』勝ちである。
対して青ナミは、『自身の山札がゼロ枚になれば』勝利という、トンチキな性質を持っているのだ。
通常、全50枚(手札とライフを抜けば40枚〜41枚だろうか)の山札が切れることなど滅多にない。
試合が相当長引いて初めて、デッキ切れが発生するのかもしれないが。僕は公式戦で皆目みたことがない。
つまり青ナミは他のリーダーと目指すべきゴールが違うのだ。
第一に、青ナミはライフを削ってこない。
青ナミは相手のライフを0にする必要がないため、わざわざ殴って来てくれない。
むしろライフを削ると相手の手札が増え、不利になってしまう。
対面はライフからの手札補充とトリガー効果を期待することができない。
第二に、青ナミに生半可な攻撃は通用しない。
ターンを重ねるほどドローされ、0枚に近づいてしまうわけだから、こちらは短期決戦で臨みたい。ゆえに怒涛のアタックを仕掛けるほかなく。
青ナミ側もそれがわかっているから、デッキ構築のほぼすべてが、『カウンターカード』という奇抜なスタイルをとっている。
カウンターカードとは、相手のアタックフェーズ中に発動することができるカードの呼称で、多くがアクティブドンをひねることでリーダーのパワーを底上げするものだ。
代表的なもので言うと、『大鎚』。
コスト1で発動。
『手札を一枚捨てる:このバトル中、パワー+4000。その後、自分のデッキの上から2枚をトラッシュに置いても良い』
つまり、リーダーのパワーをパンプしながら、自身の山札を減らすことができる便利なカードなのだ。
他にも同様のカードが多く含まれており、青ナミはカウンターカードで防衛しつつ、効果で山札を減らしていくという進行をとっている。
リーダーに対して9000でアタック!!!!
「大鎚とホワイトスネークで返します😊」
○ねばいいのに。
最後に、あまりにも型が多すぎる。
青ナミは目的が自身の山札を0枚にすることであり、普通なら見向きもされないような、マイナーカードが採用されている。
1カヤ。
2枚ドローし、2枚捨てる。
4ウソップ。
ライフへの攻撃が成功すれば自身の山札を7枚トラッシュへ送る。
5ゼフ。
登場時、自身の山札を2枚トラッシュへ送る。
ライフへの攻撃が成功すれば自身の山札を7枚トラッシュへ送る。
7クロコダイル。
以降イベントカードのコスト−1。
他にもマーガレットやブードルなどの低コストブロッカー。それらを再利用するためのイベントカード等。
採用されているかもしれないカードは多岐にわたる。
九蛇型、七武海型、インペルダウン型、まさかの攻撃型。
型を上げればキリがない。全てに対応するのは至難の業だ。
まとめると、青ナミは特性上こちらにカードゲームをプレイさせてくれない。
我々は手札と、キャラ同士の攻防戦。
ライフの削り方、リーサルなどといった駆け引きが楽しくて、ワンピカをしているのに。
青ナミはその全てを否定する。
対面はストレスが溜まる一方であるのに対し、青ナミ使いはご満悦。
自身の手札をしこしこシゴいて、一方的に気持ちよくなっている。
恍惚とした青ナミ使いの表情を、まざまざと見せつけられる。
『おナミー』を見せつけられる。
よって、青ナミは
大いに嫌われている。嫌われて然るべきだ。大嫌いだ!!
明らかに言い過ぎであるが、何ゆえ与謝野さんが有名であるのかは理解していただけただろう。
好きこのんでおナミーしている、風変わりなおナミニストなのだ。(めちゃくちゃいい人)
ここからようやく対戦の解説だが、ヤマトVS青ナミという、誰が興味あんねん案件である。
しかも超長いので、読み飛ばしていただいても構わない。
先に、僕がどうにか勝利できたということだけ、明記しておくとしよう。
以下解説である。
まずヤマトは先行が取りたい。初っ端からシバいて行きたいからだ。
一方で青ナミは後手だろう。
1カヤを使い、手札を整えてなお、1ドンを余らせることができるためだ。
最速で10ドンためたいのもあると思う。
1ターン目からドローできるのも強みだ。
先手ヤマト、後手青ナミ。これはマストである。
まず青ナミはヤマトの先ニ、8000を警戒する。
いきなりライフを二つ削られればたまったものでない。
裏を返せば、『大鎚』一枚あれば解決することができる。
与謝野さんは初手マリガンしなかった。
だから僕は思った。
『手札にカヤと大鎚があるな?』と。
案の定、与謝野さんはカヤを場に出してターンを終了した。
僕はこの状況を予想していたからこそ、とあるカードをキープすることにした。
『アマルor魔九閃』である。
二コスト3000パンプのイベントカード。
つまり、先二ヤマトで、『9000ダブルアタック』ができるのだ。
青ナミがこれを守るには、大鎚+1000カウンターを切らなければいけない。
ただでさえ大槌は手札一枚を捨てるわけだから、『大槌+捨て札+場に出したいキャラ』の計3枚を要求することができる。
つおい!!
仮にここで守ってくるようなものなら、ナミ側の残り手札は2枚。
次のターン、最大値おナミ9000ダブルバニッシュでぶん殴ってやる。
だが与謝野さんは賢明だった。
ライフ2枚を損切りしたのだ。
結果、たとえヤマトのリーダー効果を最速で使われようとも。手札の3枚とトリガーの2枚を守った形だ。
にひひ。僕は与謝野さんが賢い人だと信じていたよ。助かったぜ。
なにせ僕はこの試合で、一度もおナミを引けなかったのだからね!
トリガー発動、『サンジのピラフ』
2枚ドロー、強い!?
青ナミの2ターン目。
3コスブロッカーであるマーガレットを展開。
1ドンアクティブでターンを終了。
ヤマトの3ターン目。
ここでは三つの選択肢があった。
一つ目、3イゾウでマーガレットを寝かし、リーダー7,000でリーダーにアタック。
却下。明らかに大鎚を持っていたのだから、簡単に守られる。
二つ目、3イゾウでマーガレットを寝かし、5000リーダーでマーガレットにアタック。
相手のアクティブは1だから、スネークダンスで戻される心配はない。
残りニドンでシュラを展開する。
却下。ブロッカーにかまえば相手の思う壺だ。
三つ目、オームホーリーの二面展開をして、殴らずターンを終了する。
このターンアタックすることができないが、今後強くなると見こして、僕は三つ目を選んだ。
青ナミの3ターン目。
僕は祈っていた。
どうか青ナミ側がぶん回ってくれますようにと——。
与謝野さんは最高の動きをした。
サンジのピラフ+3ドン残しである。
アクティブドンは少なくなるが、これで青ナミ側の手札は12枚。盤石の構えだ。
なぜこのムーブを望んでいたのか。
僕の7ドンターン。
『最速ホーディ』だ。
ホーディはブロッカーだけでなく、アクティブドンを寝かすことができる。
つまり、僕はマーガレットを寝かし、場に3体殴れるキャラがいる状態で、アクティブドンを2にすることができたのだ。
5000ヤマトでリーダー。
ここは絶対に防がなければいけない。
ホワイトスネーク。ドンはゼロ。
ホワイトスネークはこのターン中リーダーのパワーを1000あげる。
アクティブゼロの状況で、オームホーリーを置物にすることができる。
望むところだ。
ヤマトは先ほど、ダブルアタックに成功している。
つまりリーダー効果が使えてしまうのだ。
7000ホーリー。
アビス+グロリオーサで防ぐ。
8000ホーディ。
ここは受けざるを得ないだろう。
ナミのライフは2。
5000オームでマーガレットをKO。
後手4
ナミでホーリーにアタック。
温存していたシュラを切らされる。
グロリオーサでマーガレットをサーチ。
場に出して、4ドンアクティブを残しターン終了。
先手5。
ナミのライフが2であるため、焔裂きの効果が発動。
マーガレットを寝かし、ホーディ9000でアタック。
おそらく次の13000ダブルアタックを警戒したのだろう。与謝野さんは勇気の受けを選んだ。
(ヤマトはダブルアタックなため、ライフ2止めは弱く、1にしてドローソースを増やしたい。これはヤマトにとって全リーダー共通の嫌なムーブである)
しかしこれは悪手だった。
ホーディ、まさかの連投である。
ドンを二つ寝かし、あまつさえ自傷効果でヤマトのライフはすでに2。
オームの効果、常時プラス1000が発動する。
5000ヤマトでマーガレットをKO。
7000オーム。
リーダー効果7000ホーリー。
9000ホーディ。
ターンエンド。
後手5。
青ナミはマーガレットを展開してターンエンド。
先手6。
ヤマト、またしても焔裂き(運良すぎ)。
そしてライフは2であるからして、5エースが速攻になる!!
5000ヤマトでリーダーから。ホワイトスネーク。
12000ホーディ(アマル)、
12000ホーディ。
8000エース。
6000オーム。
6000ホーリー。
バケモンである。
お互いフルムーブをかまし、ヤマトの勝利となった。
青ナミの独りよがりなおナミーを掻い潜り、ヤマトの金棒でイイところを攻めて、与謝野晶子は思わず快感でバニッシュした。
フラシ脅威の三連勝。
次戦準決勝。
対戦相手は——。
次回『師弟対決。フラシ優勝へ』に続く。
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