第17話 フラシ優勝までの道のり

『フラシ優勝したい欲がすごい。

このままコンスタンスに出場していたら、いつか行けるんかなー』


 上記はR 6年4月29日のツイートである。

 

 どうやら僕は横文字に弱いようだ。

 この場合は『コンスタント』が正しい。


 そんなことはさておき、以上の文面から僕がフラッグシップバトル優勝を、明確に意識し始めていたのがうかがい知れるだろう。


 ワンピースを初めてはや十ヶ月。

 いくらヤマトしか使っていないと言えど、中級プレイヤーを名乗れる程度には、実力がついてきた自覚はある。


 そうなると、いよいよ高みを目指したくなってきちゃう。


 フラシ優勝。はい、めちゃくちゃ優勝したいです。


 フラッグシップバトルが、そもそもどのような大会なのかと言えば、各店舗で行われる公式大会であり。


 32〜64名のプレイヤーの中から、優勝者が決まるまでしのぎを削りあうという、競技性の高い催しだ。


 その点はスタバなどでも同一だが、なぜフラシがプレイヤーから特別視されているのかというと、やはり景品の豪華さにある。


 上位入賞だけでも一万円近くのカードが貰え、優勝ともなれば最低でも五万円から、高くて三十万円近くの品が手渡される。


 あまつさえ無料で参加できるのだから、コレクター、プレイヤー、転売ヤーこぞって応募し。必然注目度も高くなる。

 

 人気店などでは、32人定員に対し、千人近くの応募者が殺到することもままあり。(複垢嫌い!)

 月に一度出られればいいほうだ。必然優勝のチャンスは限られてくる。


 ガチ度に比例して、プレイヤーのレベルも相応に高く。会場によっては殺伐とした空気が流れている。


 三宮某ショップでは、プレイヤー同士のトラブルで警察沙汰にまで発展したそうだ。(いい大人が……)


 ゆえに優勝の価値はすさまじく。


 フラシを前日に控えた僕と黒色師匠は、事前練習に打ち込んでいた。


「海くん、昨日あんなこと言うてたけど。本気なん?」

「言霊ってありますからね〜」


 昨日は鬼ヶ島CSの開催日だった。


 大会後、トナメ進出祝いも兼ねて、チームメンバーと打ち上げに行ったのだが、ここで問題が発生した。


「僕、お金ありません」


 海、金欠問題である。


 ワンカートン大爆死の余波は大きく、僕は一回の外食すらままならない状況にあった。


 みかねた四天王たちが僕の食事代を折半してくれたわけだが、何を思ったか僕は不相応なことをのたまった。


「次のフラシ優勝するんで、勝ったら全員に奢ります」


 この発言を僕は後々後悔することになるのだが、ひとまずは黒色師匠との対戦である。


 昨日はドミネーターさんにおかぶを奪われていたが、彼のメインデッキは新黒ルッチ。

 もちろん本日もいそいそと練習中だ。

 

 師匠のデッキは少し特殊で、当時は特徴CPを含むカードを多く採用した『CP型』が一般的だったのに対し。


 特徴海軍を主軸にした、『海軍型』を握っていたのだ。変態である。


 そのためボルサリーノやヒナ、タシギやおつるを大胆に採用できていた。


 打点にもなる憎きサーチブランニューを最速で出せるのも強い。


 当時必須カードであったエニエスロビーが、CP軸であってもサーチ手段がなかったことが、海軍型を選んだ決め手だろう。


 海軍型、CP型、どちらであっても引けるときは引けるし、引けないときは引けない。自引きするしかない。


 ヤマトとしては正直嫌な構築である。

 なにせボルサに5サボ、レベッカという強力なブロッカーの三面構えだから。


 相手が上手い黒色師匠というのもあるが、勝率は芳しくなく。僕は攻略法を模索していた。


 日もとうに沈んだ午後10時。

 絶賛タコ負け中だった僕は、最後に泣きの一戦を懇願した。快くいやそうな顔で了承した黒色師匠。


 せっかくだし、普段とは違うムーブを試してみることにした。


『後手取り』である。


 僕の空島ヤマトは全対面先行を取りたいリーダーだ。

 ブロッカーが並び始める前に、相手のライフを3にしてしまいたいからである。


 もう少し掘り下げよう。


 先ニ、8000リーダー →

 先三、10000リーダーorオームホーリー →

 先四、最速ホーディorレスト札、5エース →

 先五、リーサル+焔裂きエルトール構え →

 先六、リーサル。


 以上が黄金の方程式である。

 つおい。


 一方で新黒ルッチ、特に海軍型はこの対面後攻を選びたいだろう。


 後手一、エニエスロビー+ブランニュー →

 後手ニ、4コスブロッカー →

 後手三、5サボor除去 →

 後手四、モリア! →

 後手五、モリア! →

 後手六、モリア! →

 後手七、モリア🖕。


 以上が漆黒の方程式である。

 つおい!!!!!!


 つまりジャンケンでどちらが勝ったとしても、お互いニッコリの対面なのである。








 



 ——かと思われた。


 最後の一戦、先後を入れ替えてみると面白いことが起こった。


 後手一、シュラサーチ →

 後手ニ、オームホーリー→

 後手三、オームホーリーorおナミ →

 後手四、リーサルor耐えプラン →

 後手五、リーサル


 あれ? 普通に強くね?


 僕は大胆にも菊之丞を抜いていた。

 そのため無理に相手のライフを3にしなくていいのも僥倖ぎょうこうだった。


 一方で海軍ルッチは、最速ブランニューエニエスがてきず、最速ブロッカーができず、最速モリアができず。


 相手のプランを崩すことに成功した。


 最速5サボは確かに強いが、それだとヤマトのオームホーリーを処理することができない。


 処理を優先するのならブロッカーが立てられず、おナミダブルバニッシュが飛んでくる。


 あれ? 普通に弱くね?


 僕は黒色師匠にこの日初めて勝利した。


 つまり、海軍ルッチに限り、ヤマトは『後手有利』だったのだ。


(CP型だと先手最速スパンダムor乱脚ができてしまう)


「ま、始まるまでどっちの構築か分からんし。ルッチ相手なら先手取っとくんが丸いんちゃう?」


「ですね!!」


 coming soon……。


 次回『フラシ開幕! おナミー!!』に続く。

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