第19話 フラシ決勝!! 師弟対決

 準決勝進出者は8名(優勝者2名のため)。

 地元勢の生き残りは僕と黒色師匠だけだ。


 確率論的に考えれば、師匠と当たる可能性はめっぽう低いが、僕は確信めいたものを感じていた。


 どーせ師匠だと。


 彼は絶望的に運がない。

 ここで僕を引き当てても何ら不思議でないのだ。

 皆が固唾を飲んで見守るなか——。


「次の対戦相手が発表されました」


 互いに顔を見合わせる。

 笑うほかなかった。


 この日、黒色師匠は地元勢と三回対戦している。

 ビッグママンとパパさん。


 そして僕だ。

 

 64人規模の大会で。

 どんな確率だよ。


 席に着く。

 運命のジャンケン。

 黒色師匠が勝てるはずもなく、案の定僕の勝ち。


 迷いなく『先行で』と言いそうになった瞬間、脳裏によぎるのは昨日のフリー対戦だ。


『師匠の海軍ルッチには後手有利みたいですね』


『ま、始まるまでどっちの構築か分からんし。ルッチ相手なら先手取っとくんが丸いんちゃう?』  


『ですね!!』


 運命とは何て残酷なんだろう。

「後攻で」

 かくして波乱に満ちた師弟対決が幕を上げる。


 戦いはシャッフルの段階から始まっていた。

 スタバや交流会、フリーなどでは気ままに行うシャッフルだが、フラシのようなガチ大会ではそうもいかない。


 相手の積み込みやサーチなどといった不正行為を事前に防ぐため、『相互シャッフル』を求められるのが普通だ。


 ヤマトデッキを入念に混ぜ合わせる黒色師匠。彼を尻目に、僕は邪念を抱いていた。


『今日の師匠はとことんツイていない日だ』


 ならきっと、この山札も大いに事故っているはず。

 下手に他者が介入し、運勢を乱すよりは、このまま行く方が得策なのでは?


 僕は山札の一枚目を軽く指でなぞるだけでという、前代未聞のシャッフルを行った。


「まじめにやらんかい」

 若干お怒りだ。

 どんな手札だろう?

「マリガンで……」


 ニマニマ。

 

 一方僕の手にはシュラ、オームホーリー、ホーディが揃っていた。文句なし。


 ヤマトは前半から積極的に多面展開し。

 流石は師匠、負けじと全面除去で返してきた。


 しかし無理な除去はリソースの消費と、ブロッカーの無展開を意味する。手札も若干事故り気味。


 隙に全ドンパンチをかまし、彼を後がない状況へ追い込んだ。


 だがそれは僕も同じだった。

 互いに残ライフは1。


 師匠の盤面には多数のキャラ、一方僕は5エースのみ。


 慎重に5エースを除去するべきところだが、彼の手札の枯れ具合をみるに、速攻札次第で即死する勢いだ。


 つまり師匠には二択がある。


 速攻札がないと見て、耐えプランで行くか。

 割り切りリーサルか。


 僕としてはリーサルに来てくれた方がありがたい。

 なぜなら手札はカウンターカードばかりで、速攻どころかレスト札すらなかったからだ。


 ブロッカーを一体置かれるだけで詰みである。

 もちろん5エースをKOされても詰み。


 僕は『リーサル来られたらマズイ顔』に務めた。


 わざと計算するフリのため、ドンを空で振り分け、小首を捻ってみたり。


 わかりきっているのに『残り何ドンですか?』としきりに尋ねてみたり。


 姑息な番外戦術だ。


 師匠は長時間にわたる思考のすえ、ついに結論を出した。


 多数のドンを残し、底打点でリーサルに来たのである。


 もちろんここで手札を切れば、ライフを守ることができる。


 しかしへたに守ってしまうと、リーサルが不可とみて横向きの5エースを取られてしまう。


 うますぎる……。


 ならばライフで受けたらどうなるか。

 縦置きのブランニューに全ドンつけて13000だ。


 そして僕の手札のカウンター値はちょうど13000。

 残ライフがカウンターレスであれば即死。


 僕にも二択ある。

 次のドローが速攻札であることに賭けるか。

 はたまたライフがカウンター値であることに賭けるか。


 師匠は普段、あまりアグレッシブな進行をとらない。

 堅実なプレイヤーなのだ。


 その師匠がここにきて、大一番の勝負に打って出た。


 僕は彼の漢気に答えたくなってしまった。


「ライフで受けます」


 本日の僕は運がいい。

 そして相手は師匠だ。


 緊張の瞬間——。


「しゃあ!!」


 無慈悲にもライフはカウンター値であった。

 結局、どこまでも運の勝負だった。


 僕は師匠に勝利した。


 まさに死闘だった。

 過去の対戦の中で、間違いなく最も緊張した試合だ。

 

 ついに念願の決勝卓へ。


 師匠から勝ちを奪いとったんだ。

 負けるわけにはいかない。


 最終戦の相手は、フラシを五度ほど優勝している上澄みの猛者。


 使用リーダーは『黒黄ルフィ』。

 

 当時の黒黄はルッチに対し絶大なアドバンテージを握っていた。

 結果論、師匠が決勝へ進んでいても、勝負にならなかっただろう。

 

 ほんと、どんだけ運が無いんだよ……。


 しかし僕はヤマトだ。

 対黒黄ルフィの研究は終えていたし、なにより師匠を倒しゾーンに入っていた。


 僕はこの日一番の快勝をもって、フラシ初優勝という栄冠を戴いた。


 めでたし、めでたし。






 とはいかないものだ。


 思い出してほしい。

 僕は先日、こんな約束をした。

『フラシ優勝したら全員に飯奢ります!!』


 この日、地元勢からは10人ほどが大会に参加していた。


 僕は金欠であったくせ、その場にいた全員に食事を奢らなければいけなくなった。


 入賞景品を売りはらい、みんなに祝われながら食卓を囲む。


 無事入賞を果たしたビッグママンとパパ、パパジュニア。

 後輩に奢られる先輩風トッシー。

 怖くて一人でトイレに行けないジャイアン。


 フラシも。祝勝会も。

 楽しかった。

 とてもいい思い出だ。

 大切な僕の宝だ。


 一方で師匠は誰よりも食べていた。

 大口開けて。

 二人前注文していた。


「おいしかったよ」


 

 次回『ぺろのアニキとゴンザレス権田の漢気』に続く。

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