第13話 ヤケクソデート。ブチギレ彼女

 皆がエリア大会に熱を上げているなか、僕は一人不貞腐れていた。久しく忘れていた自己嫌悪におちいっていた。

 エリア大会に応募し忘れると言う、致命的なミス。有給を取ったのにも関わらず、ぽっかりと空いた予定。


 もう何も考えたく無かった。

 塞ぎ込んでいた。


 そんなおり、一通のメールが届いた。


『30日ひま? 遊ばん?』


 彼女からだ。

 このメールにはかなり救われた。

 しばらくワンピースのことなど考えたく無かった僕からしたら、まさに慈愛の雨だった。


 遊ぼう!

 せっかくだ。彼女と最高の休日にしよう!

 普段お世話になっているんだし、お礼も兼ねて美味しいものをご馳走して。

 この悲しみを乗り越えてやる!


 いつもなら三ノ宮で遊ぶけれど。

 大会会場の神戸からなるたけ離れたかった僕は、わざわざ彼女の住む大阪へと向かっていた。


 田舎からだと二時間ほどかかるので、ちょっとした小旅行だったが、楽しみなデートを思えばなんてことはない。

 今日は彼女のために1日を使うつもりだ。

 いい彼氏になってみせるぜ!


 待ち合わせ場所は梅田駅すぐのHEP下。

 真っ赤な観覧車が頭上に目立つ。


 僕はHEPが初めてだったので、施設内に何があるのかを調べてみた。


 これがいけなかった。

 今世紀最大の過ちだった。


 見つけてしまったのだ──。

『ワンピースカード取扱店』の表示を。

 ワンピースカードに重きを置いた、バンダイの公式ショップ。


『公式ショップ』

 田舎ではあり得ない字面。ううう。魅力的だ。

 

 行かざるを得なかった。

 欲望には抗えなかった。


「ワンピース見に行っていい?」

「海。いま誰と遊んでる?」

「行きたい行きたい行きたい!!」


 この時点で若干、彼女は不機嫌だったかもしれない。


 彼女はワンピースが嫌いだ。

 

 初めは興味がなかったのだろう。

 イーストブルー編以降の情報はなにも無く、アニメもろくに見ていない。


 ワンピースが大好きな僕の手前、向こうも悪くは言ってこないが、僕がしょっちゅうカードのせいで彼女をおろそかにしているので。


『興味ない』が、やがて『嫌い』になっていったのだと思う。


 あくる日、僕にひたすらワンピースアンチによる批判動画を見せてきた。さすがに『こいつガチや笑』となった。


 でもまぁ、お互い分別のついた大人である。

 互いの趣味には干渉しないようにしていた。


 でもそれは、不可侵条約を守っていて初めて成立する法律だ。


 今回僕は無理やり、彼女をワンピースショップへ連れて行ってしまった。


 あまつさえ、パックを購入制限よりも多く買うため、行列に彼女を並ばせる暴挙に出た。


 重大なマナー違反だ。

 頭では理解していたが、僕は愚かにも自分を律することができなかった。


 購入後すぐ。

「ここでパック開けていいかな?」

「海、いま私と何してたっけ?」

「もちろんデートよ!!!!汗」


 流石にパックを剥くのははばかられたので、鞄にしまい、つつがなくデートを続行した。


 その後はうまくやったと思う。二人でショッピングをして、街を散策し、おしゃれな喫茶でお話しもした。


 とても楽しいデートだった。


 ハプニングが起きたのは昼食どきだ。


 夕飯は豪勢なものにする代わり、昼食はショッピングモールのフードコートで安く済ませようと考えたのだ。


 二人で席に着く。食事が完成するまでの待ち時間。

 僕はとうとう我慢ができなくなった。


 彼女が食事をとりに席を立った隙に、パックを剥き始めたのだ。


 だがパックはかなりの量があって、すぐに剥ききることはできなかった。


 そうこうしているうちに彼女が帰ってきてしまった。


 パックの亡骸を一瞥いちべつする。

「もー、ちょっとは我慢しいやぁ〜」

「ごめん、あと少しやから」


「まったく。せめて静かに剥きや? 周りちゃんと見ーよ」


 昼時、休日のフードコート。

 席はほぼほぼ埋まっており、見渡す限り人の山。

 大きな声を出したら迷惑になる。


「あたりまえやん笑」

 そう意気込んで、最後のパックを剥いた瞬間——。


「どっひゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 ホール中に響き渡る盛大な雄叫び。

 

 なんと当ててしまったのだ。

 ワンカートンを購入してまで、欲っしていた念願のレアカードを。


 時価総額十万円をゆうに超す——。


『ハンコックのコミックパラレル』を。


 辺りの人間全員がはしゃぐ僕を注視していた。

 案の定、彼女はブチギレた。


 全面的に僕が悪いので、平謝りするしかない。お叱りの内容は記憶からトラッシュ送りにしたので覚えがない。


 一つだけ確かなのは、彼女がさらにワンピースカードのことを嫌いになったということ。


 つらぁ。


 ただまぁ、彼女さんよ。

 ワンピースカードのことは嫌いになっていいので、僕のことは嫌いにならないでね。マジで。


 エリア大会には落ちた。

 けれど落ちたおかげで彼女と遊べた。

 デートは本当に楽しくて。

 デートをしたからこそコミパラも当てられて。


 少しのトラブルはあったけれど。

 全ては繋がっている。

 今ではいい思い出だ。


「ローダーに入れたいからカドショ行っていい?」

「ぜっっっっっったいに嫌!!!! 何考えとん!?」


 いい思い出か?


 次回『それって社会人としてどうなん?』に続く。

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