第12話 店舗予選開幕! 地獄の雨天決行
ワンピカを初めてから早数ヶ月。僕にとっては初めてのチャンピオンシップ店舗予選が開幕した。
店舗予選とは、各カドショにて行われる予選大会のことであり、上位3名に入賞した者のみ、次のエリア大会へ進出する権利が得られるというもの。
エリア大会を勝ち進むと、日本一を決める全国大会へ進出することができる。
たとえ負けたとしても、物販やマッチングバトルなどの豪華特典が用意されている。
半年に一度のお祭り大会である。
ワンピカプレイヤーなら誰しもが目指すべきところで、当然僕もそのはしくれとして店舗大会へ臨んだ。
ただ僕は決して強くない。
禁止改定によるヤマト弱体化もあって、参加してもなかなか勝ちきることができず。
抽選倍率も高く、大会へ出場すること自体ままならなかった。
そうこうしているうちに月日は過ぎ、刻限の月末が近づいていた。
流石に焦った僕は、とある作戦を強行することにした。
『平日の昼間に開かれている、遠方の小規模大会へ参加する』
ならば社会人プレイヤーを度外視でき、抽選を通しやすくなるのではないか。
目論見は功を奏し、僕は無事、原チャで一時間の場所にあるショップの大会へ参加することができた。
この日は苦難の連続だった。
まず持って土砂降りの大雨である。
その中をバイクで走ると言うストレスは甚大で、会場に着いただけで疲弊してしまっていた。
その次に参加費用である。
これは僕の悪い癖で、募集要項をちゃんと読んでいなかった。
なんと今大会は、参加費千円を徴収していたのだ。
もちろん僕だって参加費を取る店舗のことは存じていたが、PayPayがあれば大丈夫だろうとタカをくくっていた。
現金オンリーだった。
ときに月末。給料日前。
通帳の残高はゼロである。
なぜなら先日、カートンを購入し、大爆死したばかりだから。
詰んだ。
絶望に打ちひしがれながら、トボトボ帰宅していると、とある人物を見かけた。
おそらく僕と全く同じ作戦を決行したのであろう、知り合いの姿だ。
「崖っぷちさん!!」
僕はかけだしていた。
僕が住む兵庫県のワンピカ界隈には、大きく分けて三つの派閥がある。
1、都会勢。
都会勢は最も数が多く、主に日本の首都である神戸三宮を縄張りに活動している。大阪勢も含めれば、規模感は計り知れない。その分徒党もおおく、まとまりはみられない。
2、田舎勢。
神戸中央区から外れた田舎者の寄り合い。
僕を含めた地元の派閥だ。
数こそ多くはないが、まとまらないことにはプレイ自体できないため、必然いつも一緒にいる。今エッセイの登場人物たちは、だいたいこの田舎勢である。
3、姫路勢。
おそらく最も仲がよく、最も活発に活動している集団だ。姫路のカドショへ行くといつも誰かしら人がいて、無限にフリー対戦をすることができる。
閉店時間になると、
陽キャな人がほとんどで、美男美女も多い。クラスのカーストでいうと上位の奴らだ。
田舎勢とも頻繁に交流させてもらっている。
崖っぷちさんも、そうした姫路勢の一人だった。
彼とは何度か話したことがある程度の仲。
面識は浅く、界隈も別、そんな人に僕は頭を下げていた。
「PayPayと現金を交換してください!!」
恥である。
まったく人として恥ずかしい限りである。
崖っぷちさんが優しい人で助かった。
僕は彼のおかげで、どうにか大会へ参加することができた。
ならばこそ負けるわけにはいかない。
お金を借りてまで出場して、おずおず帰るなど、バカのすることだ。
決意を新たにして挑んだ初戦の相手は、当時圧倒的tier1リーダーであり、サカズキの後継、赤紫ローだった。
だがやつは混色リーダー。ヤマトが有利だ。
問題なく突破し、続く第二戦。
7弾環境の新リーダー。
緑ボニーである。
「うげ!!」
相性は最悪だ。前回要塞型の緑ウタに、ヤマトが不利だと話をしたが、全く同じ理由でボニーにも激不利だった。
リーダー効果で貴重な打点をレストにされ、デカパンチは安いブロッカーで守られる。
8キッドを突破する手段がなく、相手の欠損を祈るしかない。
対戦相手は僕を見るなりニヤニヤして、ボソリと呟いた。
「ラッキー、俺ヤマトに負けたことないねん」
絶望だった。
だが、対戦相手のそうした
僕は生粋のヤマト使い。そんな僕が、激不利対面の研究を疎かにしているはずないだろう?
ヤマトの必殺技、おナミダブルバニッシュ!! いらない。
オームからのホーリー。全力多面展開!! いらない。
9ゾロや8カタクリなどの対策カード!! 必要ない!!
攻略法は一つ、魂のホーディ連打だ。
相手のアクティブドンを寝かしつけ、リーダー効果を封じる。
キャベンディッシュやホーキンスなどのパワーカードを、さらなるパワーで上から殴り、8キッドへ続く牙城を崩す。
僕はこの日、3枚のホーディを走らせて、ボニーに初めての敗北をプレゼントした。
運命の第三戦。
エネル。
「まじかよ……」
対エネルは不利とか言う次元の話でない。
無理対面だ。
ヤマトというリーダーは、全力パンチで相手のライフをゼロにし、勝利することを信条としている。
一方でエネルは、『ライフがゼロになると回復する』というぶっ壊れ効果を持っている。
つまりヤマトの強みを完全に殺されているわけだ。
ボニーほどの安定感はなく、時たま相手の欠損で勝つこともあるが、普通にやればまず負けてしまう。
だが、それが諦める理由にはならない!!
僕は加減なしの覇王色の覇気で挑んだ。
相手は怯み、だからだろう、致命的なヘマをした。
ヤマトのダブルアタックを受け、ライフを二枚捲ったのち、ライフの一枚目であるトリガーしらほしを発動させてしまったのだ。
ヤマトは相手のライフを二つ削る。
もしそのライフがトリガーである場合、上から一枚ずつ、順に効果処理をしなければいけない。
相手はその手順を怠り、ニ枚同時に受けてしまったのち、一枚目のトリガー効果を使ったのだ。
僕は速やかにジャッジを呼び、相手は戦意を喪失。僕の勝利となった。
魂の決勝戦、赤紫ロー全盛の時代にあって、唯一競ることの許された強リーダー、新黒ルッチ。
相性はルッチが有利だが、僕には黒色師匠との濃密な対戦経験がある。ルッチの倒し方なら心得ている!!
最速ブロッカーを立てないのなら、全ドンつけて殴るべし!!
相手のライフを早々にゼロにして、リソースを削り切れ。
僕はルッチに千カウンター差で辛勝し、見事店舗予選を優勝という形で通過した。
嬉しかった。誇らしかった。
雨の中、風の中、金欠、不利対面、無理対面、全ての山場を乗り越えて。
いくたびの七難八苦を打破し、ついに辿り着いた頂。
だがまだ道中だ。
次はエリア予選、さらには全国大会!!
僕はさらなる高みへめざし、ひた走る!!
やらかした。
エリア大会へ応募するのを忘れていた。
気づいたときにはもう遅く、期日などとっくに過ぎていた。
あれほど頑張ったのに。一位になれたのに。有給までとったのに!!
僕は出ることができなかった……。
次回『ヤケクソデート、ブチギレ彼女』に続く。
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