第9話 初めてのスタバ優勝。恩を仇で返した男

 二話にも記したが、僕の初敗北を奪ったのは、小学四年生の男の子だ。


 根っからのカタクリ使いであるカタクリ君。彼とはその後も仲良くさせてもらっており、今では「海〜」と呼び捨てにされるほど。


 そんな彼には二人の弟がいて、どいつもこいつも個性的である。


 まずは長男のカタクリ君。口が悪く、ニヒルで不敵な笑みを浮かべてはいるが、実は心根の優しいやつだ。

 僕は過去、弟が欲しがっていた千円のゾロパラドンを、実費で買ってあげているところを目撃した。しっかりと長男やっている。


 二つ下の次男、赤ゾロ君。シャイで控えめな印象があり、子供にしてはやけに謙虚だ。遠慮の姿勢も見せられる、とてもよく出来た子である。

 試合に負けるとたびたび悔し涙を浮かべてしまうが、悔しがれる子が一番強くなると僕は思っているので、勝手に後方保護者面。

 趣味はONE PIECEのシール集めで、いつだってお宝を大切そうに持ち歩いている。散歩中には手を繋いでくれるぞ!


 さらに二つ下の三男、ジャイアン。この子はやばい、マジでやばい。傍若無人を絵に描いたような、生粋の末っ子オブザイヤー受賞だ。

 暴言暴力なんでもござれ、わがままべそかき一等賞。


 イタズラも大好きで、僕は対戦中、何度も背後から驚かされたし(ちゃんと心底ビビっている)、いつのまにかドンの数も減っている。抱っこ抱っことせがんでくるし、たまにはお菓子を分けてくれる。


 ドがすぎて大人に叱られることも多いが、情状酌量の余地はない。

 あとほっぺたがとてもぷにぷにしている。ちっちゃくて可愛い。


 どの子らも個性的だが、ちびっこたちをまとめるのが彼らの母、『ビッグママン』である。


 ビッグママンは聖母のように穏やかな顔と、阿修羅のように怒れるオカンの側面を併せ持つ人で、僕は一度『お前頭沸いとんのか!?』というお叱りを目撃したことがある。長男と末っ子の口の悪さは母譲り……?


 兄弟たちはそんなママンが大好きで、自らマザコンを自称している。万年反抗期の僕からすると微笑ましい限りだ。(おっさんたちも皆ママンが好きである)


 そんな家族と仲良くなった僕は、遠方のショップへ、連れて行ってもらえることになった。


 原チャしか足のない僕を憐れんでくれたのだ。目的はスタンダートバトル。


 地元に一つしかガドショがない田舎の都合上、スタバですら貴重な大会なのだ。


 ドライブ中、膝の上に変わるがわる赤ゾロ君とジャイアンを乗せ、談笑に花を咲かせていた。


 それはとても幸せなひとときだった。


 問題はここからだ。


 結果として僕はスタバで初優勝することができた。

 だが、それまでの道中が不味かった。


 全四回戦中、全てがママン一家というとんでもマッチングになってしまったのだ。


1、 ジャイアン

2、 赤ゾロ君

3、 ママン

決勝、カタクリ君


 激戦を乗り越え優勝した僕はつまり。


なのである。


 皆優しいから何も言わなかったが、恩を仇で返したようで少し心苦しかった。


 景品はちゃっかりいただいた。


 余談だが、僕のスタバ優勝はこれが最初で最後の経験である。

 なぜか僕の地元の人たちは、対ヤマトの理解度がすこぶる高いのだ。

 きっとヤマトしか使わない変態が近くにいるのだろう。


 最後に直近起きた兄弟たちのエピソードを交えて〆ようと思う。


 まずはカタクリ君。

 彼を子供だと侮ってはいけない。

 猛者揃いの我が地元において、スタバは何度も優勝しているし、先日のパパ杯では見事全勝優勝を果たした。

 

 これはチームメイトである黒色師匠以上の戦績であり、彼は師匠に向かって『俺のおかげやな。次こそは頑張ってくれ』と鼻高々だった。


 僕はその厚顔を挫くため果敢に挑んだが、惨敗を喫した。


 久しぶりに聞けた。

「今どんな気持ち〜?」


 なんでこいつこんな強いねん腹立つわ!!


 次に赤ゾロ君。

 上と下の個性に挟まれて影が薄くなりがちだが、彼だって相応の実力を持つ。ヤマトに有利が取れる赤ゾロ使いであるからこそ、僕だけは彼を警戒し続けていたが、どうやら他の大人たちは違ったようだ。


 パパ杯開催のおり、大人達は赤ゾロ君にアドバンテージを与えた。ライフ+2である。


 はっきりいってバカである。

 彼は後日、景品がシリアルエース期のフラシにおいて決勝卓まで進む男だ。


 そんな赤ゾロ使いがライフ7になったとき、誰が彼を止めることができる?


 赤ゾロ君は大人たちを蹂躙した。


 その後のパパ杯では、ライフの追加は1になった。

 その1はきっと、敗者たちの見栄なのだ。

 


 最後にジャイアン。

 

 彼はいつだって暴れん坊だと思っていたが、どうやら違ったようだ。あのガキンチョは人を見て行動している。


 珍しく、ママンでなく父親が保護者としてやってきた日があった。


 どうやら父親は怒ったら怖い方のようで、普段の様子からは考えられないほどほどしおらしく、控えめなジャイアンだった。


 心なしかいつもより優しい気がする。

 映画版ジャイアンってやつだ。


 他の大人たちは光景に感動し、みな一様に同じ感想を抱いた。


『『『『親父さん毎日きてください!』』』』


 次回『時代のうねり』に続く。

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